共感で駆動する経済圏は、私たちに何をもたらすか?

 このような問題が存在し、解消の必要があるという前提の上で、では実際にオルタナティブ経済を作ろうと思った時に何が必要になるだろうか。新井さんが考案した貨幣eumoは、その必要を満たすことを目指している。以下を導きの糸にして確認したい(同書55ページ)

新井 テクノロジーの使い方が間違っているんじゃないかっていうのが、新しいお金をつくろうと思ったそもそもの出発点だったわけです。そして、そうじゃないお金、つまり関係性を重視するお金っていうものをつくりたいって思っちゃったんだよね。

 文頭の「テクノロジー」は「カネの運用」を指すと理解していただいて構わない。カネは善でも悪でもない。ただ、資本主義はカネを目的化しやすく、悪いベクトルで機能させやすい。ならば、ということで提示したのが「関係性を重視するお金」だと言うのだ。

 要言すれば、そのお金は、「素敵!」「嬉しい!」「いいね!」「ありがとう!」といった感情で人と人をつなげる、そのきっかけ、場を提供するという機能を担うことを“志向”している。eumo経済圏は、目的になりがちな貨幣を手段の位置にとどめ運用すること、つながりを作るという目的を前景化させ、貨幣価値の肥大を抑止することを意図している

 驚くべきはeumoの特徴だ。eumoは貯めることができない。貯蓄できない通貨である。否、正しくは「期限がくると経済圏共通の“サイフ”に吸収されてしまう通貨」である。お察しのとおり、これは「貯められる悲劇」を生みがちなカネの性質を踏まえた設計である。

 改めて言う。資本主義の駆動力は「あらゆる欲望」だ。欲望を燃やすことが「是」とされる。しかしeumo経済は「共感」を駆動力にする。共感を表現することが「是」とされる。その仕組みを紹介しよう。

 この圏域では、インターネットのプラットフォームが媒介役を担う。そこではeumo会員や加盟店がやりとりしている。仮に、ある加盟店を訪れた人がそこのファンになり、「素敵!」と感動したとしよう。その人はアプリで気持ちを表現し、シェアする。すると、情報にふれて共感した人が反応する。それが契機となってつながりが生まれ、中には「私もお店に」と足を運ぶ人もでてくる(実際そうなっている)。そうして有機的な人間関係も生まれる――。

 もちろん同経済圏では、感情や共感表明のインセンティブも考慮されている。たとえば――すでに疑問に思っている読者もいるかもしれないが――経済圏共通の“サイフ”に吸収されたeumoは、その後どうなるのか。実は、共感・感情の表し方や度合いによって再配分されるのである。異質な人と出会えば出会うほど、そして共感すればするほどeumoが回ってくる。eumoの交換と感情の表明は地続きになっていて、人々は自然、思いや気持ちを交換に乗せようとする。新井さんはeumo発の人間関係を「みんながギフトしあうような関係」(同書72ページ)と表現しているが、そうしたいと思える仕掛けがちりばめられている。