『週刊ダイヤモンド』1月11日号の第一特集は「外食の王様」。7年連続で市場が拡大し、25兆円を超えた外食産業。移り気な消費者の胃袋をつかむため熾烈な競争が続いています。立ち食いステーキ、お一人さま焼き肉……。食べ方の多様化や、健康面の再評価もあり〝食の王様〟である肉のブームは健在です。ただ海外では距離を置く動きも広がり、人工肉が流行の兆しをみせています。

 いきなり大失速──。立ち食いで厚切りステーキを味わう「いきなり!ステーキ」の出血が止まらない。

 低価格ステーキ「ペッパーランチ」で知られるペッパーフードサービスが、いきなり!ステーキの1号店を出店したのは2013年。外食業界の平均原価率が3割程度とされる中、約6割と特異な存在で注目を集めた。

 客単価2000円超ながら、東京・銀座の1号店は行列でにぎわい話題に。17年から19年11月までに店舗数を4倍に増やしたが、急速な出店があだになった。

 既存店売上高は、17年までは右肩上がりの成長を続けていたものの、18年に急降下する。

「定期的に通っていたが、飽きてしまった」(40代・都内男性)という声もあり、減少した客足を取り戻せていない。「勢いに身を任せて、実態に見合わない出店を続けた結果だ」と、ある外食幹部は厳しい評価を下す。

 負の遺産は当然、業績にも重くのしかかる。新規出店が継続中であるため、19年12月期第3四半期決算は、前年同期比で売上高が15%増の518億円となったが、営業利益は同98%減の4400万円と惨憺たる状況だ。

 20年1月までに、全体の1割に当たる44店舗が閉店することを発表している。苦境から抜け出すにはしばらく時間がかかりそうだ。

 急失速は居酒屋チェーンの鳥貴族も同じだ。同社は18年1月以降、既存店売上高が19年10月まで、実に22カ月連続で前年同月割れ。「急速な出店によって、自社競合が発生しただけでなく、立地に見合わない出店も行ってしまっていた」と、大倉忠司社長は当時について反省する。

 では肉の需要それ自体が減少しているのかというと、少なくとも国内ではそうではない。

 ホットペッパーグルメ外食総研の調査によれば、焼き肉、ステーキ、ハンバーグなどの専業店の市場規模は右肩上がりで、18年度には4000億円を突破した。稲垣昌宏上席研究員は「12年2月ごろから肉の消費量が増加しており、今日に至っている」と解説する。

 なぜか。まず、重要なタンパク源として、「肉は体にいい」との認識が高齢者に広がった。加えて、「17年ごろの低糖質ブームで、糖質制限中であっても、『肉なら食べてよい』という風潮が広がった」(稲垣氏)という意識の変化も起きている。

 また、外食で肉を食べるスタイルの多様化もブームを後押しした。一人一台の無煙ロースターで焼き肉を楽しめる一人焼き肉専門店「焼肉ライク」は、18年8月に東京・新橋に1号店をオープンして以降、〝お一人さま〟需要をがっちりつかんだ。

 焼肉ライクの親会社であるダイニングイノベーションの創業者は、牛角を運営するレインズインターナショナル元社長の西山知義氏だ。牛角で築き上げたノウハウを、一人焼き肉の舞台で発揮している。

 他にも、ワンダイニングが運営する「ワンカルビ」は2時間食べ放題の焼き肉店で、年齢によって値段を7段階に設定することで支持を獲得。牛丼チェーン「松屋」を運営する松屋フーズも、ステーキの新業態「ステーキ屋松」を始めるなど、群雄割拠の様相は続く。

 とはいえ、前出のホットペッパーグルメ外食総研の調査では、市場成長率は17年の前年比10%増に対して、18年は同5%増と伸びは鈍化している。

 さらに、今回の特集でダイヤモンド編集部が実施した社長アンケートでは、多くの社長が20年のヒット商品として「人工肉」を予測した。

米国のスーパーマーケットで販売されている植物由来の人工肉。日本では広がるのだろうか
Smith Collection/Gado/gettyimages
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 人工肉とは、牛や豚など家畜の肉に代わる製品として、人工的に本来の肉に近づけた加工食品だ。「豆腐ハンバーグ」のような大豆やエンドウ豆を原料とした植物性タンパク質由来のものと、動物の細胞を培養して作る培養肉の二つに大別される。

 国内の食品業界関係者もまた、人工肉に熱視線を送る。国内食品ベンチャーのインテグリカルチャーは、すでに動物細胞の大量培養による食品生産に向けて、日本ハムと共同開発を始めた。

上場外食「経営者」87人の経営偏差値を大公開
従業員満足度&収入格差度ランキングも

 週刊ダイヤモンド』1月11号の第一特集は「外食の王様」。7年連続で市場が拡大し、25兆円を超えた外食産業。移り気な消費者の胃袋をつかむため熾烈な競争が続いています。外食産業を彩るのは個性豊かな経営者たち。ダイヤモンド編集部はアンケートと独自ランキングを基に、「外食の王様」の実態に迫りました。

 インタビューに登場する“外食王”は総勢18人の豪華メンバー。ワタミ、いきなり!ステーキ、サイゼリヤ、スシロー、くら寿司、丸亀製麺、富士そば、日高屋、リンガーハット、鳥貴族、串カツ田中、磯丸水産、餃子の王将、ケンタッキー・フライド・チキン、モスバーガー、CoCo壱番屋、デニーズ、ロイヤルホスト、と誰もが知る大手チェーンのトップが2020年に流行する食材やメニューを大胆予測します。

 また、本当はやってみたい店舗や、お手本にしている企業、“まずい”と思った他社の料理など、めったに聞けない外食トップの本音を明かしてもらいました。

 さらに特集では、外食トップの“経営偏差値”を初算出。浮き沈みの激しい外食産業で、効率よく安定して稼ぎ続ける経営者は誰なのか、87人の経営者をランキング形式で解剖します。上位で目立ったのは、名古屋発祥の企業でした。

また外食産業で欠かせないのは現場の最前線で働く従業員たち。人手不足が叫ばれるなか、いかに従業員に定着してもらうかも経営者の腕の見せ所です。そこで実際に働いた人の口コミをもとに、“ホワイト度”を評価する63社の従業員満足度ランキングを作成。さらに、会社のトップと従業員の収入格差にも注目し、97社の“格差度”をランキングにしました。

 トップの生の声を通じて、外食産業の最新トレンドが分かる一冊です。ぜひご一読ください。(ダイヤモンド編集部 岡田悟、山本興陽、大矢博之)