ちきりん そういう違いもあるんですね。たしかに読者はそのへんよく見てますよね。私も「地球の歩き方」を始めガイドブックを買う時は、奥付を見て、時には「何年何月の発行だけど、これが一番新しいものですか、次のはいつでますか?」と聞いたりもします。御社の場合、情報の鮮度へのこだわりが、他社と違うんでしょうね。
石谷 そう言っていただけるとありがたいですね。
ちきりん 特にガイドブックは改訂がないと、「古い情報が載ってる」という印象が読者に残り、それが積み重なって、「なんか、このガイドブックはよくない」という感じになりそう。一方、書店さんの評価はどうなんでしょうか? 出版年号があるガイドブックと無いガイドブックがあったら、無いものが嫌われてしまう?
石谷 書店さんは新しい本かどうかを読者の人に聞かれると思うので、そのとき年号が入っていたほうがわかりやすいですよね。
「シリーズ化」が与える安心感
ちきりん ところで、世界に目を転じると、「Lonely Planet」というガイドブックがありますよね。これが英語圏ではドミナントなブランドになっています。「Lonely Planet」も同様ですが、「シリーズ化してたくさんの地域について出していることが、ガイドブックブランドにとって、どれほど大事なことなのか」という点についてうかがえますか?
石谷 たとえマイナーな国・地域でも、「『地球の歩き方』なら揃えているだろう」という気持ちを読者にもってもらっているとは思います。イタリアならイタリアの町でも、「ほかのガイドブックにはないけど、『地球の歩き方』だったら載ってるだろう」と。
ちきりん 経営的に見れば、売れ筋の国、地域、町だけに集中してシリーズを出すほうが効率はいいですよね。そういう出版社はあるんですかね。
石谷 ありますね。
ちきりん ニューヨークとかパリ、ソウルや上海だけ出す、という方法ですよね。そういうガイドブックは、その街に関しては健闘しているのでしょうか? それとも、、逆にそれだけだとダメなのでしょうか? そこに関心があります。つまり、同じシリーズで『ブータン編』まで出していることが『フランス編』『パリ編』を売るためにも大事なのかどうか、ということなんですが……。
石谷 売れ筋に集中すれば、最初はよく売れるんですよ。いろいろなガイドブックを研究して出していますので、中身もよくできている。でも、最初は売れるけれども、なぜか途中で消えちゃいます。
ちきりん へー、おもしろい。それはなぜですか?
石谷 そこから広がっていけば変わっていくんでしょうけど、たとえば20タイトルと決めて、それで終わっていると、なぜかタイトル全体が終わって書店の棚からなくなっちゃいます。改訂していても終わってしまう。そのやり方だと、結局は「ブランドとして成長できない」ってことなんでしょうね。
ちきりん どういう意味でしょうか。
石谷 やはり、シリーズ化してタイトルを増やしてくことができないと、読者に「使い慣れた安心感」が出てこないように思うんです。私もそうですけど、何十カ国って行く人たちは、毎回、使い慣れたガイドブックを買いますよね。たとえば、モロッコに行くときに「地球の歩き方」を使えば、ニューヨークに行くときも「地球の歩き方」が詳しいだろう、となる。そのようなリピーターの気持ちを考えると、シリーズとして増やしていくことの大事さも理解していただけると思います。
ちきりん 数十年かけてカバー地域も増え、ブランドの認知度も高まって、ドミナントになっていくんですね。
今回は「地球の歩き方」の成功要因について、いろいろとお聞きしましたが、では今後、ガイドブックはどうなっていくのか。電子書籍化でも便利になる気がしますので、次回はそのあたりのことを含めてうかがいたいです。(続く)
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