『週刊ダイヤモンド』2月15日号第1特集は「世界史でわかる日本史」です。日本は独自に歴史を積み重ねてきたわけではなく、直接的にも間接的にも世界と連動しています。「日本史」含むたくさんの歯車が機能することで「世界史」というシステムが動いているのです。逆もまた然り。一部分だけ切り取っても全体を理解することはできません。世界史と日本史を同時に学ぶことで、歴史の学び方・楽しみ方は無限に広がります。ここでは、特集内から「スペイン風邪とインフルエンザの歴史」を抜粋して紹介します。

世界の人口の約50%が感染した
「スペイン風邪」とは?

キャプション:フランスの風刺雑誌「La Baionnette」。スペイン風邪がはやった1919年に発行されたもの 画像提供:アフロ
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 新型コロナウイルスが猛威を振るっている。世界保健機関(WHO)は、肺炎の感染拡大に対処するとして「緊急事態」を宣言した。今のところ治療法もワクチンもなく、中国に拠点を持つ日本企業は緊急体制に入っている。

 感染が短期間で世界的に拡大し、多数の人々が年齢を問わず感染する「パンデミック」。人類はこれまで何度もこうした状況を経験してきた。

 近現代においてその中で最も世界を脅かしたものは、「スペイン風邪」だろう。インフルエンザの一種であり、第1次世界大戦のさなかに瞬く間に世界中に広がった。20世紀初頭は「ウイルス」という概念がまだ新しく、抗生物質も発見されていない。手洗いやうがい、患者の隔離といったことしか手だてがなかった。

 約5億人、世界の人口の約50%が感染し、25%が発症。死者は5000万人ともそれ以上ともいわれている。日本では1918年の11月に全国的に流行し、3年間で人口の約半数の2380万人がかかり、約39万人が死亡したと報告されている。

インフルエンザの名前の
由来は「星の影響」

 そもそも「インフルエンザ」はいつから人類を脅かしているのか。起源について調べてみると、平安時代の歴史書『日本三代実録』内に、「京都だけではなくほぼ全国にわたって多くの人が『咳逆』を患い、多数の死者が出ている」といった内容の記述がある。

 さらにさかのぼると、紀元前412年に古代ギリシャの医者、ヒポクラテスが「突然、住民たちが高熱を出し、震えや咳が止まらなくなった。たちまち村中にこの症状が広がり住民たちは怯えたが、すぐに去っていった」という記録を残している。しかしインフルエンザという概念の成立はここ100年。いずれも実際にインフルエンザだったかどうかの真偽は不明だ。

 インフルエンザの言葉の由来は「Influentiacoeli」という単語。ラテン語で「星の影響」を意味する。毎年、冬から春にかけて流行するという周期性から、16世紀にイギリスの占星術師がこのように呼んだとのことだ。

 これまで何度もパンデミックは世界の歴史に大きな影響を与えてきた。前述のスペイン風邪は戦力不足を招き、第1次世界大戦の終結を早めたという。今回の新型コロナウイルスは米中貿易戦争にどのような影響を与えるのだろうか。

「日本史」も「世界史」もない
そこにはただ「歴史」があるだけ

 『週刊ダイヤモンド』2月15日号の第1特集は、「世界史でわかる 日本史」です。

 本特集は、「世界史から日本史を捉え直す」ことで、歴史を「つまらない」とか「興味はあるけど遠い」と思っている人たちの思い込みを覆すことを目指しています。

 「群盲象を表す」というインドの寓話があります。象の一部分だけを各々が触っても、それが象とはわからずに意見が食い違うというものです。お互いの話をよく聞いて組み合わせてみると像であることがわかったとか、あるいは第3者から指摘を受けたことでわかったとか、様々な形で世界中にこの話は広がっています。

 歴史も同じです。日本史を知るためには世界史を学ばなければなりません。日本は独自に歴史を積み重ねてきたわけではなく、直接的にも間接的にも世界と連動しています。

 本来は「日本史」も「世界史」も存在しません。そこにはただ「歴史」があるだけです。「日本史」「世界史」という区分けは本来存在せず、教育システムや受験勉強のために便宜上、分けられたにすぎません。それが歴史を学ぶ意欲を失わせているのです。

 「想定外」という言葉は、歴史の不勉強による想像力の欠如から発せられます。日常でもビジネスでも何が起こるか分からないこの時代。本特集をきっかけに、あらためて歴史を学んでみてください。読み終える頃にはきっと歴史に対する見方が変わっていることでしょう。何より、あなた自身も「歴史」の執筆者であることを意識しているはずです。

(ダイヤモンド編集部編集委員/クリエイティブディレクター 長谷川幸光)