わざわざ戻って「かえる探し」をしていただいた方にはお気の毒ですが、じつをいうと、あの作品のなかに「かえる」は描かれていません。それどころか、モネの作品群である《睡蓮》には、「かえる」が描かれたものは1枚もないのです。

その場にいた学芸員は、この絵のなかに「かえる」がいないことは当然知っていたはずですが、「えっ、どこにいるの」と聞き返しました。
すると、その男の子はこう答えたそうです。

「いま水にもぐっている」

私はこれこそが本来の意味での「アート鑑賞」なのだと考えています。
その男の子は、作品名だとか解説文といった既存の情報に「正解」を見つけ出そうとはしませんでした。むしろ、「自分だけのものの見方」でその作品をとらえて、「彼なりの答え」を手に入れています

彼の答えを聞いて、みなさんはどう感じましたか?
くだらない? 子どもじみている?

しかし、ビジネスだろうと学問だろうと人生だろうと、こうして「自分のものの見方」を持てる人こそが、結果を出したり、幸せを手にしたりしているのではないでしょうか?

じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるでしょうか?

「中学生が嫌いになる教科」…第1位は「美術」!?

申し遅れましたが、私は国公立の中学・高校で「美術科」の教師をしている末永幸歩と申します。

あなたは「美術」という教科に対して、どんな印象を持っていますか?
大人のみなさんは学生時代を振り返ってみてください。

「そもそも絵が下手なので、あまり好きではなかったです……」
「美的センスがないんでしょうね。いつも成績が『2』でした」
「生きていくうえでは、役には立たない教科だと思います……」

教師としては残念なかぎりですが、多くの人からこのような答えが返ってきます。
それにしても、「美術」へのこうした苦手意識は、どこから生まれるのでしょう?

じつのところ、これには明確な“分岐点”があるのではないか、という仮説を私は持っています。
その分岐点とは、この連載のタイトルにもある「13歳」です。

次のグラフをご覧ください。これは小学生と中学生それぞれの「好きな教科」についての調査結果をもとに私が作成したグラフです。

小学校の「図工」は第3位の人気を誇っているのですが、中学校の「美術」になった途端に人気が急落しているのが見て取れます。
小→中の変化に注目するなら、下落幅は全教科のなかで第1位。「美術」はなんと「最も人気をなくす教科」なのです。

だとすると、「13歳前後」のタイミングで、「美術嫌いの生徒」が急増している可能性は十分に考えられそうです。

みなさんにも思いあたることがありませんか?

「中学校に入って初めての美術の課題が『自画像』だったんですが、美術部所属の同級生のと比べると、自分の絵がなんとも不格好で弱々しくて、とても恥ずかしい気持ちになりました……」
「ほかの教科の成績はまずまずだったんですが、いつも美術だけはいまひとつでした。評価基準がよくわからないまま低い評定をつけられたのが嫌でしたね。『自分には美的センスがないんだなあ』と思うしかありませんでした」
「期末テスト前になったら、いきなり美術史の授業がはじまって、作品名を丸暗記させられました。あれはなんだったんでしょう」

こうした状況は依然として続いています。私が一教員として学校教育の実態を見てきたかぎりでは、絵を描いたりものをつくったりする「技術」と、過去に生み出された芸術作品についての「知識」に重点を置いた授業が、いまだに大半を占めています。

「絵を描く」「ものをつくる」「アート作品の知識を得る」――こうした授業スタイルは、一見するとみなさんの創造性を育んでくれそうなものですが、じつのところ、これらはかえって個人の創造性を奪っていきます。

このような「技術・知識」偏重型の授業スタイルが、中学以降の「美術」に対する苦手意識の元凶ではないかというわけです。