「ビジネス×アート」をテーマとした書籍が急増するなか、圧倒的な注目を集めた本と言えば、『13歳からのアート思考』だろう。著者の末永幸歩さんは当時、無名の美術教師だったにもかかわらず、同書は刊行1年足らずで16万部超のベストセラーとなり、多くの読者から「読んでよかった!」「こんな授業が受けたかった!」という声が届いたという。
なぜ今、多くの人のうちに「アート」に対する渇望感が生まれているのだろうか?「アートの島」として有名な瀬戸内海の直島(香川県)での特別授業の模様を最近、「動画講座」としてリリースしたという末永さんに話を聞いた。対談相手は『13歳からのアート思考』担当編集のダイヤモンド社・藤田悠(構成:高関進)。

「自分がやりたいことをやれ」と言われてモヤモヤするワケ

★前編はこちら★
美術館で「これ知ってる!」しか感想が言えない人がやってしまいがちな「ものの見方」
──【「アートの島」対談】末永幸歩×担当編集[前編]
https://diamond.jp/articles/-/272031

「花職人」にモヤモヤした人のなかで
何が起きているのか?

担当編集・藤田悠(以下、藤田) 前回もお話ししたとおり、SNSやウェブレビューなどを見ると、「『13歳からのアート思考』を読んでよかった!」という感想が圧倒的多数を占めています。

 でも他方で、本書の「花職人」という表現に引っかかっている人たちが一定数いますよね。編集者としてはここがすごく面白くて、これについて末永さんといつか議論したいなと思っていました。

末永幸歩(以下、末永) 以前、ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリさんとの対談をセッティングいただいた際にも、藤田さんは「花職人」についてのトピックをご用意いただいていましたよね。そのときから藤田さんの意図がすごく気になっていました。

参考:
ベンチャーキャピタリストと美術教師が対話したら、
「才能を爆発させる条件」が見えてきた
── 【対談】佐俣アンリ × 末永幸歩

藤田 末永さんはアートを「植物」に見立てていて、「花=アート作品」「根=作品が生まれるまでの探究プロセス」「タネ=探究の発端となる内発的関心」だと説明されています。世の中で「アート」というと、ふつうはみんな「花=作品」ばかりに目を向けてしまいがちだけれど、とくに20世紀以降のアーティストたちがやっていることを見るときには、「根」や「タネ」のほうに目を向けないと本質を見損なう、というのが『13歳からのアート思考』のメッセージの一つですよね。

「自分がやりたいことをやれ」と言われてモヤモヤするワケ(『13歳からのアート思考』より)

末永 そのとおりです。その際、「探究プロセス」や「内発的関心」を大事にしている人こそが「アーティスト」であるとした一方で、「根」や「タネ」を蔑ろにして、「作品の出来栄え」とか「アウトプットの質」ばかりにとらわれている人を「花職人」と名づけました。

末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/浦和大学こども学部講師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト

「自分がやりたいことをやれ」と言われてモヤモヤするワケ

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、東京学芸大学附属国際中等教育学校や都内公立中学校で展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、出張授業・研修・講演など、大人に向けたアートの授業も行っている。初の著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が16万部超のベストセラーに。オンラインで受講できるUdemy講座「大人こそ受けたい『アート思考』の授業ー瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨くー」を2021年5月に開講。