「中国からの入国を全面禁止せよ」
という批判は的外れ

 安倍首相の「全校臨時休校」の要請に対しては、「その前に他にやるべきことがあるだろう」という批判がある。その代表例が「中国からの入国を全面的に禁止せよ」というものだ。現在、新型肺炎の発生源である中国からの入国制限を湖北省と浙江省に限っているが、なぜ中国全土に拡大しないのかという主張である。

 筆者も当初この主張を支持していた。自民党の保守系議員など政府に近い筋も主張していた。だからリアリティーのある主張だと思っていたのだ。だが、よく調べてみると、現在中国から日本への渡航は事実上ほとんどないと言っていいほど制限されている。

 中国人の訪日観光は基本的に、中国の法令に基づく「団体観光」の形式をとり、旅行会社を通じて団体観光ビザを申請することになる。だが、中国政府は新型肺炎の発生後、中国国内の旅行会社に対し、全ての団体旅行を中止するよう命じている(「中国、27日から海外団体旅行を禁止 新型肺炎拡散防止で」『日本経済新聞』2020年1月25日)。これは、通勤のために京都駅を毎日のように通る筆者にも実感がある。京都駅を埋め尽くしているようだった中国からの観光客が、雲散霧消しているのだ。

 自民党の保守系議員はこの状況を当然知っているはずだ。それでは、なぜ「中国からの入国者全面禁止」にこだわるのか。中国政府が自ら日本への出国を禁止していることや、安倍政権が自ら中国人の入国禁止を決断しないことが「政治的」に都合が悪いからだとしか言いようがない。

 新型肺炎に感染した人が中国から日本へ入国し放題になっているかのような発言は、国民を不要なパニックに陥れてしまうものだ。現在のような「非常事態」において、「政治的な思惑」で誤った情報を軽はずみに流すのは慎むべきである。