なぜ、人類は「制度」を生み出したのか?
中野 ええ。人間は時間の観念を抱き、未来に向けて行動する存在です。しかし、人間には、未来を正確に知ることは不可能ですので、一定の予想や期待を形成し、それに基づいて行動せざるを得ません。その未来の予想や期待を形成するために、人間は他の人々と一定の行動様式を共有し、その行動様式に従って行動するわけです。
そして、他の人々と共有する一定の行動様式が「制度」であり、諸々の制度を共有する集団が「社会」です。人間は、社会の一員を構成し、社会が共有する制度に従って行動し、同時に、社会の他の構成員も制度に従って行動するであろうと期待することができます。
このように、制度が社会において共有されていることによって、他者がどのような行動をとるのかについての見通しが立ち、未来の不確実性が減殺され、人間はより確信をもって行動することができるとともに、他者との協力行動や集団行動も容易になるわけです。
――「生」に確実性を与えるために、私たちは「制度」を生み出したと?
中野 そうですね。もちろん、誰かが「制度」を設計したわけではありません。そうではなく、人類は、不確実な世界を生きるために試行錯誤するなかで、より確実性を高める方法を見つけてきた。その集積が、現在ある「制度」なんです。
たとえば、貨幣、契約、私有財産権、企業組織、銀行、共同体そして国家といったものは、いずれも未来への行動や集団行動を実現するための制度です。人間は、こうした制度を創造することで、未来の目的に向けて物理的、人的資源を協力して動員し、さまざまな活動を可能にしたんです。
――なるほど。
中野 そして、「人間は不確実性を生きる存在である」という認識は、諸学を統合するうえで共通の了解にできるのではないかと考えています。