人間とは「不確実性」を生きる存在である
中野 そもそも、戦争と国家は不可分な関係にあります。シュンペーターは20世紀初頭に、近代国家は、大規模な戦争を遂行するために、人的・経済的資源を動員する必要から生じた政治組織であると論じていましたが、1970年代以降、歴史社会学と呼ばれる分野において、近代国家の形成過程の解明が進んだことにより、その洞察が実証的に裏付けられるようになりました。
もちろん、戦争は国家が引き起こすものですが、同時に、戦争が国家を生むとも言えるわけです。なぜなら、国際関係の圧力が国家を規定するからです。国際関係が国家を動かし、国家が国際関係を動かす。その相互作用こそが世界のダイナミズムを生み出しているのです。
――つまり、安全保障を脅かされる状況が生まれれば、それに対応するために国家は体制を強化する。その圧力が近代国家を形作ってきたということですか?
中野 簡単にいうと、そういうことですね。
――そして、そのダイナミズムのなかで、現代的な貨幣制度、中央銀行、資本主義も生み出されてきたと?
中野 ええ。だから、戦争や国家から目をそらすと、資本主義経済を正しく理解することができなくなるんです。
――たしかに、非常に説得力を感じます。人類の歴史を動かしている何らかの力学が働いており、それに対応しようとするなかで、国家や資本主義が生み出されてきた。そんなイメージでしょうか?
中野 そうそう。そんなイメージですね。
――そして、いま世界にどんな力学が働いているかを読み解いて、それにどう対処していくべきかを考えるためには、政治学、地政学、経済学、歴史学などの諸学を統合させる必要があると?
中野 そうです。その試みとして書いたのが『富国と強兵 地政経済学序説』なんです。それが成功しているかどうかは、みなさんに読んでいただいてご判断いただきたいですね。
それで、この本を書いているときに面白かったのは、「人間とは、不確実な未来に向けて、一定の予想や期待を抱きつつ、現在において行動する存在である」と捉えると、貨幣や資本主義や国家の必要性や危険性がブワーッと理解できたことです。そう思って書いていったら、こんなに分厚い本(全590ページ)が出来上がったわけです(笑)。
――「人間は不確実性を生きる存在」だと規定するのは、納得感がありますね。