新型コロナウイルスにまつわるデマが各地で騒動を引き起こしている。トイレットペーパーの品切れはもちろん、「社長が感染者」と嘘の情報を流されて売り上げが減ってしまった会社もある。人はなぜ、混乱時にいとも簡単にデマに流されるのだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

「コロナデマ」で
製麺会社が大被害

トイレットペーパーは瞬く間に品切れとなりました。
恐怖に囚われた頭で情報をかき集めて「合理的」に判断した結果、暴走する――人間がデマに踊らされる時は、こうした現象が起きている Photo:AFP/JIJI

「県内で発表された感染者は、××社の社長とその奥様です。夫婦でダイヤモンドプリンセスに乗っていた、と社員の方から聞きました。××社の近くにお住まいの方はお気をつけください」

 こんな「デマ」をSNSで流されたことによって、事業に大きなダメージを受ける会社が全国で続々と出てきている。例えば、秋田県横手市の製麺会社・林泉堂は、社長が県内から出ていないのに、ダイヤモンド・プリンセス号に乗船していたという根も葉もないデマを流され、麺類の売り上げに影響が出たほか、同社の収益のひとつである牛乳配達事業でも「心配だから」という理由で解約が相次いだという。

 昨年夏、悪質なあおり運転事件で、まったく無関係の女性が名指しで「同乗者」だというデマが広まった。この女性は見ず知らずの人たちから凄まじい誹謗中傷をされ、脅迫までされるという「魔女狩り」のような被害に遭ったと大きな話題となったが、「コロナ狩り」が起きてしまったのだ。

 SNSで流れてくる情報は怪しい。デマを拡散した人も同罪。パンデミックよりもインフォデミックの方が恐ろしい――。そんなアナウンスがそこかしこで繰り返されている中で、なぜこんな差別的なデマをツイートをする人や、それを拡散させる人が後を絶たないのか。

 まず、大きな理由として、新型コロナへの不安から人々の間で「差別意識」が高まっていることが大きい。

 先月22日、日本災害医学会が、ダイヤモンド・プリンセス号で感染防止にあたっていた医療従事者が、職場で「バイ菌」扱いされるなどのいじめ行為を受けたり、子どもの保育園・幼稚園から登園自粛を求められるなど不当な批判を受けているとして、「人権問題」だという声明を発表した。

 乗員乗客のため、そして日本のため、自分の身を危険に晒してまで尽力した人たちに、こんな心ない対応をする人がいるなんて信じられないと驚く人も多いかもしれないが、東日本大震災時の福島第一原発周辺の被災者や、瓦礫撤去作業をした人々もまったく同じ目に遭っている。放射性物質、新型コロナウイルスという違いはあるが、目に見えない恐怖を前にして、「自分と家族は助かりたい」とパニックになった人々が、安全を脅かしそうだと判断した人たちを差別・排斥するという構造はまったく同じである。