中国は権威主義の優位性を世界に示し
民主主義に代わる「勝者」を目指す

 この連載では、中国政府が習近平国家主席の時代になって急激な経済発展・軍事力拡大を実現して自信を持ち、中国の権威主義体制を欧米式の民主主義に代わる「世界の政治体制のモデル」として世界に普及する戦略を取るようになったことについて、何度も論じてきた(第220回)。

 中国政府は、新型肺炎もこの戦略に利用しようとしているようだ。中国政府は、徹底した都市封鎖によって、新型肺炎を抑え込んだ。「新型肺炎の蔓延を最も包括的に、厳格に、徹底的に押さえ込んだ」「感染が広がる他の国に支援する用意がある」とアピールし始めているのだ。

 そして、中国に派遣されたWHOの国際専門家チームを率いたブルース・エイルワード事務局長補が「自分が新型肺炎にかかったら中国で治療を受けたい」と絶賛してフォローしている(『WHOエイルワード事務局長補「私が新型肺炎に感染したら中国で治療受けたい」』. 人民網日本語版)。中国は、WHOのお墨付きも得て、効果的な新型肺炎対策を採れない民主主義陣営に対する権威主義体制の圧倒的な優位性を世界に示し、「勝者」になろうとしている。

 だが、中国政府の思惑通りに事が進むかといえば、それは難しいのではないだろうか。そもそも、中国がどこまで本当に新型コロナウイルスを押さえ込めているかが疑問だ。中国政府が主張する「新規感染者ゼロ」が信じられないということだ。1カ月前には1万5000人も新規感染者がいたのだ。それが急にゼロになったというのは、あまりにも不自然だ。

 しかし、「新規感染者ゼロ」が、共産主義の「計画経済」においてトップダウンで示された目標だと考えると、何が起きているのか理解できる(第114回)。現場は目標を達成しなければ処分されてしまう。どんなことをしてでも新規感染者ゼロという数字を出さなければならない。数字は操作されたものだと考えるべきだ。

 また、仮に国内の新規感染者の増加を完全に封じ込めたというのが本当だとしても、中国には新たな危機が起き始めている。海外から入国した人の感染事例が200人を超えて、全国に拡大しつつあるのだ。人工衛星が映した情報によれば、中国は工場を徐々に再稼働させつつあるという(“Satellite Pollution Data Shows China Is Getting Back to Work”. Bloomberg Green)。今後、中国人の国内外の移動が活発化していくと再び感染が急拡大していく懸念がある。

 さらに、科学的な観点からも、中国の封じ込め策では新型肺炎を抑え込むことは不可能だという見解がある。人口の約6割の人たちが感染して免疫を獲得すれば人から人への伝染が起きにくくなり、ウイルスの大流行が自然に終焉するという「集団免疫」という概念がある。

 この概念では、どんなに強力に地域や都市を閉鎖して住民を外出させない隔離政策をとっても、一時的には感染者の増加が抑えられるが、閉鎖や隔離を解いたら流行が再燃するというのだ。従って、新型肺炎のワクチンの完成が早くても2~3年後だとすれば、新型肺炎の世界的な流行が終息するのは、感染がじわじわと広まって集団免疫が成立したときしかない(小野昌弘『英政府の対コロナウイルス戦争の集団免疫路線から社会封鎖への「方針転換」と隠れた戦略』. Yahoo!ニュース)。

 要するに、中国が都市封鎖によって新型肺炎の流行を抑え込んだとしても、世界中に「勝利」を宣言することは、あまりにも拙速であるばかりか、非常に危険なことだと考えられる。実際、イタリアやイランの医療崩壊は、「中国モデル」を採用したことが原因であるという指摘がある(姫田小夏『コロナ対策を中国に学んだイタリアとイランでなぜ感染拡大が止まらないのか』. ダイヤモンド・オンライン)。