「糖質を摂取しなければがんが小さくなる」、
「にんじんジュースには抗がん作用がある」、
「血液クレンジングはがん予防に有効」……。
インターネットにあふれているこのような話は、明確な効果が期待できません。しかし、これらを信じてしまい、怪しい業者に大金を払ってしまったり、病院で治療を受けるのをやめてしまったりして命を危険にさらす患者さんが後を絶ちません。
国民の2人に1人が生涯のうち一度はがんになる時代になり、がんは身近な病気になりました。しかし、がんについて学ぶ機会はほとんどありません。仮にがんと告知され、心身共に弱り切った状態でも、怪しい治療法を避けて正しい治療法を選ぶにはどうしたらいいのでしょうか。
4/2に発売予定の新刊『世界中の医学研究を徹底的に比較して分かった最高のがん治療』は、このような「トンデモ医療情報」の被害を抑えようと情報発信をしている3人の医師・研究者が書いたがんの解説本として、発売前からすでにSNS上で大きな話題になっています。
医療データ分析の専門家である津川友介UCLA助教授、抗がん剤治療のパイオニアである勝俣範之日本医科大学教授、がん研究者である大須賀覚アラバマ大学バーミンガム校助教授の3人が、それぞれの専門分野の英知を詰め込んで、徹底的にわかりやすくがんを解説。読めば必ず正しい選択ができる一冊に仕上がりました。
本書の刊行を記念して、本書の内容および、津川友介氏、勝俣範之氏、大須賀覚氏による発刊前に行われた講演を再構成した記事をお伝えします。(構成:野口孝行)
ヘルスリテラシーが高ければ
本当に正しい判断ができるのか?
図表1は、病院の医師が勧めるがんの標準治療を受けている患者さんと、代替療法(効果が未確定な治療法)を受けている人の予後を比較したものです(*1)。見てわかるように、代替療法を受けているほうが、生存率が低く、早く亡くなってしまう傾向がある事実が示されています。
出典:*1より筆者ら作成
代替療法:一般的にクリニックなどの医療機関で自費で行われている自由診療や、健康食品、ヨガ、マッサージなどの民間療法、音楽療法、芸術療法、温泉療法、漢方薬などを総称した治療法のこと。基本的に全額自費。
おそらく多くの人は、代替療法を受けてしまうのは、正しい情報を得られないがために間違った判断を下してしまうからだと思うでしょう。つまり、情報に触れる機会に恵まれず、間違った方向に行ってしまうと。
健康に関する情報を理解する力を、「ヘルスリテラシー」と言います。このヘルスリテラシーを高めれば正しい判断ができるようになると、多くの人たちが信じているようです。確かにヘルスリテラシーを高めるのは重要でしょう。ただし、ヘルスリテラシーが正しい判断に導く手助けをしているのかについては、一歩下がって考えてみる必要があるのです。
前述の研究では、教育水準を尺度にどのような人たちが代替療法を受けているのかを調べています。
教育水準が低い人のほうが代替療法を受ける割合が多いのでは――。多くの人がこう予想します。要は、教育レベルが高くなればなるほど、正しい情報を取捨選択し、メリットの大きい標準治療を選択するに違いないと考えるのです。