教育レベルと収入が高い人ほど
代替療法を受けている
ところが、教育水準の高い人たちのほうが代替療法を受けている傾向があることがわかりました。必ずしも教育水準が高い人たちが、情報を正しく取捨選択することができているわけではないのです。
次に、正しい選択をするには所得の多寡が影響するのかどうかを見ていきます。一般的には、社会的地位が高く、多くの所得が得られる仕事をしている人ほど確かな情報を得て、正しい判断を下していると捉えられがちです。果たしてそうなのでしょうか。
先ほどと同じ研究から得られたデータ見ると、代替療法を受けている人の約30%が平均年収500万円未満の地域に住んでいる住民であるのに対して、標準治療を受けている人たちの約40%が平均年収500万円未満の地域に住んでいる住民でした。
この研究結果からわかるのは、教育水準が高く、所得の高い人ほど、代替医療を受ける傾向があるということでした。実は日本のデータでも同じような傾向が認められています(*2)。 情報アクセスに乏しい情報弱者ほど、代替療法に流れているのではないかという思い込みは、この研究によって否定されています。
「価格が高い治療法ほど品質が高い」と
考えるのは間違い
医療や健康にまつわる大きな問題の1つに、価格と品質の関係があります。これは、テレビや車、衣類などのあらゆるモノについても言えるのではないでしょうか。
例えば、テレビを買うために量販店に行くと、基本的に価格が高い商品ほど品質が向上します。機能が多くなればなるほど、画素数が多くなればなるほど、画面がきれいになればなるほど価格は高くなり、値段と品質は正相関していくのです。ただしここで、私たちは「この機能にこれだけのお金を払う意味があるだろうか」と考えて、あれこれ考えます。
車の場合も同じです。例えば、トヨタとポルシェを比べます。ポルシェのほうが断然値段は高く、エンジンから内装まで品質に関しては非の打ち所がありません。ここでもやはり、価格と品質が正相関しています。
自由市場で取引される多くのモノについて、こうした正相関が確認できるのです。
ところが医療の分野では、正相関が見られない場面も出てきます。逆転しているわけではありませんが、病院で受けられる標準治療には医療保険が適用されるので、1~3割負担で治療が受けられ、月に8万円から10万円を越えると高額療養費制度によってそれ以上は保険で全額カバーしてもらえるのです。
こうなると、保険の効く正しい標準治療が安価になり、保険が効かない民間療法のような代替療法が高くなるという状況が生まれます。
多くの研究で、標準治療のほうが効果の確実な医療行為なのに、より安いとの証明が出されています。治療に対して支払う代金という点では、価格が高いものほど品質が低いという逆相関が起きているわけです。
お金持ちほど
代替医療をよく受ける
日本でも海外でも、一部上場企業の役員や、芸能人といったお金持ちに代替療法を受ける人が多いという逸話的な話をよく聞きます。先ほどのポルシェの例を思い出してみてください。自由市場では、高い価格のモノのほうがよりよい品質を備えているので、彼らの中には「高いもの」を求める人が出てくるのです。
より多くのお金を払えば、よりよいモノが手に入るという思い込みに惑わされると、ポルシェのような高品質を求めて、あちこち探し回り始めます。こうなると、安価なモノになかなか信頼を寄せません。
がんの治療法に関しても同様に、病院では受けられない特別な治療があると聞けば、それがとてつもなく高額であっても試そうとします。お金はかかりますが、「標準的に病院で受けられる治療法よりも高いのだから、きっとこれはいいものなのだろう」という観念にとらわれて、間違った意思決定をしてしまうのです。
がん治療の仕組みを正しく知っていれば、怪しいがん治療法の被害に遭う可能性を大幅に減らせます。たとえ、ご自身や大切なご家族ががんと診断されても、怪しい治療法の甘言に惑わされずにすむでしょう。がんになった人が身近にいない人も、ぜひ一度本書をご覧いただければ幸いです。
*1 Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB (2018)“ Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival,” J Natl Cancer Inst; 110(1), 121-4.
*2 Hyodo I, Amano N, Eguchi K, Narabayashi M, Imanishi J, Hirai M, Nakano T, Takashima S (2005) “Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan,”J Clin Oncol; 23(12): 2645-54.