現経営陣が恐れる
「もう一つの遺産裁判」の行方
今回訴えが却下された美術品に関する裁判が起こされたのは18年5月。実は、原告は同時に常司会長が所有するポーラグループ内の有力不動産会社(非上場)株式約69万株の鈴木社長への譲渡に関しても、「鈴木社長が不正な契約書をバックデートで捏造した」として、本来遺産対象だったことの確認を求める裁判を起こしていた。
この有力会社株式約69万株はその後、ポーラ・オルビスHD(東証1部上場)株式約4191万株(25日終値で時価総額約865億円)へ転換された。仮に原告が勝訴すれば、法定相続のやり直しをして4分の3(約3143万株)を手にし、一気に大株主第2位(持ち株比率13.7%)へ躍り出て経営に影響を与え得るのだ。
ではこちらの裁判の趨勢はどうか。
美術品に関する遺産裁判で原告が示したのは、「HD元ナンバー2の内部告発書面」「元取締役が捏造を認めた録音記録」など数々の状況証拠。担当する裁判体(裁判長と裁判官)は違うものの、同様の手口の不正疑惑が争われてきた株式譲渡に関する遺産裁判でもほぼ同じ証拠が提出されている。
特に原告が強い証拠だとするが、株式譲渡契約書に付随した「株価算定書」に関する疑惑だ。原告によると02~03年ごろ、ポーラ側からの依頼を受けた新日本アーンスト・アンド・ヤング(旧太田昭和アーンスト・アンド・ヤング、解散済み)の公認会計士らが、常司会長が存命だった日付にして作成したという。
具体的な立証としては、当時公認会計士らが使用した相続税申告書作成ソフトウェアを特定し、「作成日付以降にしか販売していないので、物理的にバックデートでしか作り得ない」と主張。この点からしても鈴木社長や会社側証人の証言は「うそにうそを重ねたものだ」としている。
一方、鈴木社長側は「公認会計士があえて不正に協力する理由は皆無」「株価算定書のバックデートでの作成の有無と、株式譲渡契約書捏造の有無は無関係」などと反論。不正を否定する公認会計士らの陳述書も提出した。裁判のきっかけとなったポーラ・オルビスHD元ナンバー2の内部告発については、「自身が次期社長になりたいがための虚言」などと主張し、棄却または却下の判決を求めている。
18年5月末の一連の遺産裁判提訴時と比べて、ポーラ・オルビスHDの株価は2065円と約4割まで下落している(3月25日終値)。業績悪化やコロナショックという悪材料も株価に織り込まれる中、この日の美術品裁判の判決は「投資家にとっての安心材料」(ある証券会社関係者)ではあるが、今夏ごろにもう一つの遺産裁判の判決が出るまでは、一部投資家の不信は続きそうだ。