日本で韓国エッセイが受け入れられた理由
『あやうく一生懸命生きるところだった』は、ありがたいことに日本でも4.5万部を超え、多くの方に読んでいただいているようです。
この本をはじめ、直近でベストセラーになっている韓国エッセイが日本で売れた理由のひとつに、それらがK-POPアーティストの愛読書だったことが挙げられるでしょう。
たとえば、『私は私のままで生きることにした』はBTS(防弾少年団)のジョングクの愛読書として発売前から話題となっていましたし、『あやうく一生懸命~』も東方神起のユンホが読んだ本としてファンの間では有名でした。
また、直近の韓国ブームもその流れを後押ししたと思います。ここ数年、若い女性を中心に第三次韓流ブームと呼べる状況が起きています。新大久保はかつてないほど若い女性であふれていますし、ツイッターなどのSNSでも韓国語を入れている女性をよく見かけますよね。今や韓国は若い世代にとって一番身近な国であり、憧れの対象でもあるのです。
そのような韓国ブームと、ここ数年、出版界で注目されていたK-文学人気で市場が温まっていたところに、『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)や、前出の『私は私のまま生きることにした』の大ヒットで、ますます韓国本が注目されるようになったと言えます。
日本人と韓国人の感性は、根本的に似ている
『あやうく一生懸命~』も最初は韓国ファンたちに支えられつつ、こうした市場の盛り上がりにも後押しされ、徐々にその枠を超えて売れていったように思います。
実際、この本に対する読者レビューにも「書店でみかけて、つい手にとってしまった」「共感だらけの内容だった」「救われた」「疲れたときに読み返したい」といった感想が多く見られ、タイトルを含め、この本のメッセージ自体が日本人読者にも深く刺さっていることがわかります。
これだけ日本人からも共感の声があがる理由は、欧米系の翻訳書とは違い、やはり韓国と日本の感覚が根本的には近いからではないでしょうか。社会で抱える問題から美的感覚、笑いのセンスまで、微妙なところまでますます近づいているように思います。
以前から韓国では日本の文学・小説がよく読まれていましたが、日本でも韓国ドラマが受けれ入れられるようになり、さらには韓国で日本の漫画やドラマが受け入れられ……。今は一時的に行き来が難しくなっていますが、海外の感じがしない外国という、やはり一番身近な国であり、感じるところが似ているのかもしれません。
本書でも「“なんで結婚しないの?”は、価値観の押しつけという名の暴力だ」「大学受験で三浪して気付いた、執着することの怖さ」「“やりたい仕事を探そう”という風潮が苦痛でしかない」などのコラムが日本の読者にも共感を得ています(下記からその一部をご覧いただけます)。
●“なんで結婚しないの?”は、価値観の押しつけという名の暴力だ
●大学受験で三浪して気付いた、執着することの怖さ
●“やりたい仕事を探そう”という風潮が苦痛でしかない
私自身も『あやうく一生懸命~』の原著に影響され、人生を変えた一人です。この本は多くの気づきを与えてくれますし、走り続けていた人生から少し立ち止まらせてくれる力があります。原著を読んだ一読者としてもオススメしたいですし、一人でも多くの方に手に取っていただけると嬉しいです。
イラストレーター、作家。1ウォンでも多く稼ぎたいと、会社勤めとイラストレーターのダブルワークに奔走していたある日、「こんなに一生懸命生きているのに、自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、やりきれない気持ちが限界に達し、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞める。フリーのイラストレーターとなったが、仕事のオファーはなく、さらには絵を描くこと自体それほど好きでもないという決定的な事実に気づく。以降、ごろごろしてはビールを飲むことだけが日課になった。特技は、何かと言い訳をつけて仕事を断ること、貯金の食い潰し、昼ビール堪能など。書籍へのイラスト提供や、自作の絵本も1冊あるが、詳細は公表していない。自身初のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が韓国で25万部のベストセラーに。