手取り減は取り返せない
消費者心理の冷え込みは続く

 冒頭の試算時には加算しなかった宿泊業も、奈良県などで苦境が報じられている。既に、ホテルの宿泊フロアの絞り込みや旅館の離れ・売店の一時閉鎖にとどまらず、系列ホテル内のいくつかを休業し、予約客に払い戻しもしくは別ホテルへの振り替えを選択させる動きなども出てきている。予約者全員に、全額の払い戻しを行っても耐えられる体力のある宿泊業者は、東京ディズニーランド直営ホテルなど例外的な数にとどまるだろう。その宿泊業の最低賃金付近の労働者比率も約4割に達しているため、相応の雇用調整が行われるだろう。

 さらに、最低賃金近傍労働者比率がこの両産業の間の第2位に位置する「生活関連サービス業、娯楽業」には、理容・美容業者が含まれる。節約ムードに加え、在宅勤務やマスク着用によって身なりに気を使わなくなったり、セルフカラーなどで済ませる動きが認められ始めている事態は、業界にとって逆風そのものだ。よって、俗に“コンビニエンスストアの5倍”といわれる理容・美容所でも、時給制社員に対し、相応の雇用調整を行うはずだ。

 こうした労働者にとっては、急に労働時間を減らされたところで、他の勤務先での勤務をすぐに入れることも難しい。求人誌の掲載や人材派遣も、最短勤務時間はほぼ3時間で統一されている。減る時間が短いがゆえに、職場間の移動や事前準備などを要するため、他の仕事と組み合わせることも難しい。これらの結果、手取り減に悩みつつも、1時間程度ゆえに泣き寝入りしている層が大半を占めるだろう。行き着く先は、「手取りが減るので無駄遣いをやめて生活を引き締めよう」「じっと我慢しよう」という思考・行動だ。

 3月18日に受け付けが開始された休業助成金についても、フリーランスの日額4100円が何かと取り沙汰される一方で、支給対象者は、子どもの休校によって仕事を休まざるを得なかった保護者に限られる。保護者以外はそもそも対象外としていることに加え、まる一日働けない事態への支給を前提としているため、1時間でも出勤すれば対象外となる。つまるところ、遅出や早帰りなどの時短勤務に伴う手取り減は全くカバーされない。

 出口が見えない新型コロナ渦の中でのこうした動向により、当座の生活費を求めた消費者金融の利用や、生活保護の受給申請などの増加を見込む。WHOのパンデミック宣言を受けた世界同時株安の中での国内個人消費の低迷は、株価にさらに軟調な動きをもたらすだろう。

求められる短時間勤務の選択肢
リモートワークで労働時間の検証も必要

 中長期的な対策には、在宅勤務形態を含む短時間勤務の普及による労働市場の拡張・人材の流動化促進が一案となる。誤解を恐れずに言えば、新型コロナによって逆に忙しくなっている産業は、公衆衛生や医療機関だけにとどまらない。そうした産業を含め、短時間勤務の選択肢が広がることで、突発的な時短勤務が求められた場合にも、労働者側が代替労働を可能にさせられる社会が望ましい。

 セキュリティーやコスト面での課題はあるものの、情報・通信技術の伸展により、リモートワーク型の勤務であっても、ログに残されるデータの活用が可能だ。よって、少なくともパソコンやタブレット上などでの作業ならば、「できたかできないか」の単純な成果だけでなく、実際の労働時間などの検証も可能となる。既に一部の企業では、非正規雇用形態を含む勤務者の在宅ワークをさまざまな職種で先行実施しているが、最短の勤務時間には、ばらつきも見られる[図表4]。

 雇用側には相応の管理負担がもたらされることとなるが、こうした働き方の最短時間がより短くなれば、労働者側の選択肢も広がるだろう。見方を変えれば、これが現代風の内職と言えるのかもしれない。

(信金中央金庫 地域・中小企業研究所主席研究員 佐々木城夛)