やるせないが欠かせない
プラセボとの比較試験

 治験の対象となるのは、COVID‐19と診断され、入院している成人。規定された試験手順を理解し、順守することに同意する患者に対して、治療薬の安全性及び有効性を評価するためのアダブティブ、無作為化、二重盲検、プラセボ対象試験を行う。

「アダブティブとは、レムデシビルと比較し得るくらい効果がありそうな治療薬が出てきた場合には、その薬も候補に入れて治験するという意味です。今、新たな治験薬が毎日のように出てきているので、近い将来、そうした候補薬が出てくる可能性は十分にあります。

 プラセボ対象試験は、片方はレムデシビル、もう片方はプラセボ(偽薬)を投与する2つのグループに割り付けて行うということです。どちらの対象になるかは無作為で、患者さんも医師も、誰にどちらの薬が投与されているのか分からない二重盲検で行います」

 日本のほか、アメリカ、韓国、シンガポールなど約75の医療機関で実施される国際多施設共同試験であり、当初の被験者数は440例とされている(ただし新治療群の追加により再計算もあり得る)。

 主要評価項目は、投与開始から15日目における被験者の臨床状態で判断され、以下の8項目で評価される。

・死亡
・入院、侵襲的機械的人工的喚気または「ECMO(エクモ)」(体外式模型人工肺)の使用
・入院、非侵襲的人工的喚気または高流用酸素装置の使用
・入院、酸素補給が必要
・入院、酸素補給が不要・治療の継続は必要(COVID-19関連またはそれ以外)
・入院、酸素補給が不要、治療の継続も不要
・入院なし、活動の制限及び/または自宅での酸素療法が必要
・入院なし、活動に制限なし

 被験者になるには、COVID-19への感染が示唆される症状で入院している成人、という以外にも条件がある。

「分かりやすく言えば、肺炎がある、もしくは呼吸の状態が悪くて酸素が必要であること。いずれかを満たせば、登録することができます」

 一方で、肝臓、腎臓の機能に問題がある患者や、妊娠また授乳中の患者は対象外となる。

 有効性と安全性をしっかりと確かめるには、このような治験が必要なのである。

 ただ、一般人としては、1つひっかかることがある。なぜ「プラセボ対象試験」でなければならないのだろう。既にCOVID-19で入院し、回復して退院した人によると「症状は、インフルエンザとは比べ物にならいほどつらかった」という。それほどつらく、しかも生命にかかわる状態で、偽薬を投与されているかもしれないというのはやるせない。

「プラセボに関しては、私も一般人として捉えた場合には、抵抗を感じるところがないわけではありません。ただ抑えておかなくてはならないのは、今の段階では、標準治療薬は定まっていないということです。この状況で薬を不用意に使うことは、逆に患者さんを危険にさらすことにもなりえます。効きそうだから、なんでも試してみるというのは危険なことでもある。そうならないためにも、標準薬が必要で、標準薬を決めるにはプラセボとの比較が絶対的に必要です。

 標準薬が決まれば、標準薬のパフォーマンスと比較して、その後新しくでてきた薬はどうなのかという比較が初めてできるようになります。ですので、抵抗は感じますが、こういった研究なしには、先に一歩も進めないことをご理解いただきたいと思います」