「来年夏までに再値上げもやむなし」とささやかれていたビール系飲料の値上げ機運が一転して怪しくなってきている。
ビール業界では、今年2月にキリンビール、3月にアサヒビール、4月にサッポロビール、9月にサントリー(缶入り以外は4月)が次々に値上げ。大手4社すべてが価格を引き上げた。
理由は言うまでもなく、素材・穀物価格の暴騰である。原料の麦芽を例にとれば、業界指標の「フランス産二条大麦」の相場が2006年6月からの1年間で2.8倍に跳ね上がった。
ちなみに業界トップのアサヒは07年に68億円、キリンは72億円の負担増となり、08年にはさらにアサヒが116億円、キリンが92億円のコスト負担増を見込んでいた。
ところが、世界金融不安に伴う投資資金の急速な引き揚げで素材・穀物価格が暴落し、事情は一変する。
前出の大麦価格は現時点では端境期ということもあり06年の1.2倍にまで下落。昨年は一気に3割以上も値上がりしたアルミ缶も大幅な値下げが見込まれているのだ。
「今年使う麦は長期契約で昨年中に手当てずみだし、アルミの価格交渉も難航している。そもそも原材料値上がり分すべてを、値上げで転嫁できていないのに値下げなんて無理」と大手ビールメーカー幹部は言うが、「来夏の再値上げはなくなった」とも打ち明ける。
実際には、「値下げなんて無理」というわけにもいかないようだ。
第1に、大手スーパーなどによる値下げ圧力は相変わらず根強い。ビール業界は、大手4社のうちサッポロを除く3社が売上高1兆円企業。食品業界屈指の大企業だが、それでも値上げに対する流通サイドの抵抗は激しく、スーパーや酒ディスカウンターの店頭価格が実際に上がるまで2ヵ月を要した。
第2に、今年8月まで缶入り商品の価格を据え置いたことで、一気にシェアを伸ばし、サッポロを抜いて業界3位に浮上したサントリーの例がある。差別化が図りにくい商品では、5~10円の価格差が売れ行きに直結する。本音では、どのビールメーカーも値下げ余裕ができれば安売りしたいところだろう。
素材・穀物相場低迷、円高傾向が当面続くのは間違いなさそうだ。値上げから1年もたたないのに、店頭価格の引き下げが起きても不思議はない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)