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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

ITは雇用を生まずに所得格差だけを広げるのか?
米国の失業率が回復しない本当の理由

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第59回】 2012年8月23日
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 金融業界でも似たような現象が起きた。コンピュータを使って金融商品の高速トレーディング・システムを作った企業は大儲けをした。こうした金融機関のCEO(社長)や、担当部門のスーパースター達の報酬は大きく跳ね上がり、まじめにコツコツ仕事をしてきた人の数千倍の報酬を手に入れた。これが世間の反発を招いたのは記憶に新しいが、現実は現実だった。

 タレントであれ、企業であれ、スーパースターは知名度、業界シェア、収益を独占する傾向がある。これを「勝者の一人勝ち」(Winner takes all)と呼ぶ。製造業では余りこの傾向が見られないが、ネット企業では顕著に見られる。グーグル、フェイスブック、アマゾン、ツイッターと言った新興企業が開拓した業界では、二番手以下の企業は苦戦を強いられている。

3.資本と労働の分配

 技術が進歩すると、製造現場における労働の重要度が、生産設備の重要度に劣後するようになる。生産性の向上は、労働者の努力によるよりも、新しい設備の導入によるところが大きいと企業経営者は考える。そして設備の所有者(即ち企業)が利益の大半を取っていく。ある調査によると、リセッションが終わった2009年6月以降、企業の生産設備とソフトウェアの購入額は26%増加したが、平均賃金は増加しなかった。

 米国では、GDPに占める企業収益の比率はこの50年で最も高くなっているが、GDPに占める労働の取り分の比率はこの50年で最低水準になっている。即ち、企業はその儲けを設備投資とIT化には振り向けたが、採用と賃上げは抑えたのである。

 三つの要素は労働市場にどのような変化を与えたのだろうか?ITの発達をうまく利用した人々は、大きな所得を得たが、そうでなかった人々の所得は下がった。1983年から2009年の間に、米国世帯のトップ20%の所得は上がったが、その下80%の所得は下がった。更に細かく見ていくと、トップ5%が富の80%を得て、トップ1%が富の40%を得ているという大きな格差を生んでしまった。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

シリコンバレーで考える 安藤茂彌

シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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