この作家は有名人であるだけに、声明文が注目されたが、人々はそれほど驚かなかった。

 コロナウイルス禍の中、今の中国では、このようなことが日常茶飯事だからだ。コロナウイルスに関する話題を巡り、一つのことに対する意見の食い違いから、親子や夫婦、友人、恋人、同僚の間でののしり合い、個人への攻撃・中傷、そして、有名人を標的に批判することが多発しているのだ。

 それらは、最初はちょっとした言い合いから始まり、のちにだんだん感情的になって、言葉の激しさを増していき、最後には相手を明らかな「敵」とみなし、縁を切るまでに至る。時には議論の本筋から大きく脱線し、お互いの人格攻撃まで発展するなど無関係な言い争いに発展することも度々だ。つまり、コロナ禍が原因で人と人の間に分裂や軋轢(あつれき)が生じており、人間関係が崩壊しかかっている。一種の社会現象ともいえる。

 どうしてこんな事態になるのであろうか。

「交流の場」であったSNSが
「論戦の場」に様変わりした

 共産主義国家の中国といえども、ネットが発達している今は、世界中のいろいろな情報が飛び交い、入手できる。そして、誰でも簡単に情報や自分の見解を発信できる。また、コロナの感染予防のため、家にいなければならないため、ネットが一番のコミュニケーション手段になる。

 中国では、SNSのウィーチャート(Wechat)でグループを作ることが多い。家族や親せき、職場の同僚、同じ高校や大学の出身者、クラスメート、さらに同じ趣味を持つ人、たまたま同じイベントに参加した人などさまざまである。こうしたグループは、LINEなどのSNSと同様、簡単に個人のアカウントを作れる。多い人では、1人で何百以上のグループに所属することもある。日本在住の筆者でさえも、気がついたら50以上ものグループに入っていたほどである。

 これまで多くのグループは、何気なく近況報告や情報共有などをする“交流の場”であったが、コロナ禍が始まってからは、いつのまにか“論戦の場”と様変わりした。

 議論となる話題はさまざまであるが、最近、主に「今回のコロナウイルスの出所をどう思うのか、武漢が発生源なのか、アメリカが最初の発生地なのか」「方方日記()についてどう思うのか、支持するのか、反対するのか」「トランプ大統領をどう思うのか、正常な人間と思うのか、単なる気まぐれな人と思うのか」など米中関係に関する話題が多い。それらの意見は立場により、単純化された二元論にありがちな「愛国者か、売国奴か」「右か、左か」に極端に分かれてしまい、議論は平行線をたどり、決して交わることがない。

※筆者注:「方方日記」とは、武漢在住の女性作家方方さんが、武漢封鎖の間に約60日間にわたり武漢の悲惨な様子や政府に責任追及などを綴った日記である。先月アメリカやドイツでの出版が決まった。以前の記事『武漢から新型コロナ禍を発信して読者1億超、当局の削除にも屈しない「方方日記」とは』参照)。