緊急事態宣言の延長から
一部解除の間にも検証なされず

 その後、5月6日に安倍首相は、期限を迎えた緊急事態宣言を5月末まで延長すると発表した。新規感染者数は全国的に減ったものの、西浦氏は「収束のスピードが期待されたほどでなく、感染拡大で医療提供体制へのさらなる負荷が生じる恐れがある」と慎重だったため、専門家会議は首相に期限延長を進言した。

 そして前述の通り、5月14日には安倍首相は緊急事態宣言について、39県で解除すると表明。解除しなかった都道府県についても、専門家の評価によって可能であれば5月31日を待つことなく解除する方針だ。

 だが、「西浦モデル」については何も検証がなされていない。西浦氏が訴えた「人の接触を8割減らす」は達成できなかったのだが、新規感染者は減った。結局、「クラスター対策」という仮説は正しかったのか。何より、「死者41万人超」という試算の詳細な根拠はいまだに提示されないままなのだ。

自民党の厚労族議員が
医療現場の声を官邸に上げない理由

「西浦モデル」に対する批判は、特に現場で新型コロナの治療に当たる臨床医から多く出てきている。例えば前出の上氏は、日本の新型コロナで問題なのは「院内感染」だが、「人との接触8割減の徹底」は、院内感染には効果がないと批判している(上昌弘『医療崩壊 (36) 「医系技官」が狂わせた日本の「新型コロナ」対策(上)』)。

 ある自民党の議員と医療関係者から聞いた話を総合すると、このような現場の声は医系技官がガードを固めた専門家会議には届かないが、自民党の厚労族議員などが受け止めているのだという。それでも、その声は自民党から首相官邸に届けられることはないようだ。今、新型コロナ対策について、首相官邸と自民党の間のコミュニケーションの場がほとんどないのだ。

 現場の医師はSNSなどでさまざまなコミュニティーをつくって情報交換をし、現場の状況や要望を代表者がツテをたどって厚労族に伝えている。しかし、厚労族はほとんどそれを官邸に伝えず、抱えているのだという。

 自民党には、全国の支持者から「現金給付を」「補償を」と、支援を求める声が凄まじい勢いで届いているという。しかし、自民党はそれらをダイレクトに首相官邸に持ち込んで訴えることはせず、党までで止めている。それは、現金給付の当初案に端的に表れている。最初に岸田文雄政調会長が取りまとめた現金給付案は、自民党支持者には届かない生活保護ギリギリの層に限定した30万円の給付だったからだ(第239回)。

 自民党は、東日本大震災・福島第1原子力発電所事故が起きた際の当時の民主党政権を反面教師にしているようだ。民主党議員が支持者の声を官邸に次々と持ち込んで大混乱になったことを教訓にして、安倍首相が指導力を発揮しやすいように抑制的に行動しているのだという。特に、民主党政権時の災害・事故対応の拙さは、安倍首相が民主党政権を「悪夢」と呼ぶ理由の1つだ。つまり自民党は、安倍首相に「忖度」して、黙って我慢しているといえる。

 そのストレスが爆発したのが、5月7日の自民党の「経済成長戦略本部・新型コロナウイルス関連肺炎対策本部の合同会議」だったのではないだろうか。同会議では多くの議員が殺到し、立ち見が出るほどの混雑となって「三密会議」と批判された。