パワハラがある企業で、深刻化する人材面への影響は次の3つだ。

 1つ目は、人材流出による離職率の上昇だ。特に若い世代は1つの会社にとどまる時代ではなくなり、「パワハラだ」と感じたらすぐに辞めてしまう。

「経営者が『なぜうちの会社は離職率が高いのだろう?』と疑問に思っている場合、パワハラが発生している確率が高い。突然理由を言わず、優秀な人から辞めていきます。それでもパワハラ行為者には仕事ができる人が多いので、経営者が行為者をかばって、パワハラを放置してしまうこともあります」(向井氏)

 また「若手の戦力がいなくなるということは、会社の未来に影を落とすことになる。新しい人材、柔軟性があって、チャレンジ精神に富む若手のアイデアを活かさなくなると、将来とれる選択肢がなくなっていきます。時代に取り残されて、経営の危機に瀕する恐れすらある」と向井氏は指摘する。

 2つ目に、管理職が訴えられれば、事業の中核人材を失う事態にもなりかねない。

「もし訴えられて、パワハラが認められたら、降格や退職勧奨などの処分が下されます。優秀な管理職を失えば、職場の活力はなくなります。また、一度でもこうしたトラブルになると、昇進もできなくなるので、転職する人も多い。営業であれば、その人のお客様ごと逃げてしまい、売上が大きく下がるということもある。企業としては大きな痛手を負います」(向井氏)

 3つ目には、負の情報で採用難に陥り、新しい人材が確保できなくなることだ。最も採用に影響を及ぼすのが、転職掲示板への書き込みだと言う。

「どんなに採用コストをかけてたくさんの求人広告を出しても、ひとたび『パワハラ』や『ブラック企業』などと掲示板に書き込まれると、人が来なくなる。露骨に悪い影響が出ます。こうした事態は、経営者にとってかなり怖いことだと思いますが、危機感を持つ方はまだ少ない感じがします」(向井氏)

 「転職掲示板の書き込みを消すことにお金を使ったり、いい書き込みをしてくれる人を探したり、違う努力をし始める企業もありますが、それでは根本解決にはならない」と向井氏。人手不足の時代に、パワハラは事業継続に関わるリスクであり、経営上の重要課題であるという認識が必要だ。トップが牽引してパワハラ対策を推進すれば、組織の体質を時代に合わせて良い方向に変えていくこともできるはずだ。