「現場で習わなければモノにならない」は通用しない

(2)伝達方法

 思想のモードが変われば、物事の伝達の仕方、話し方も大きく変わります。私たち日本人の伝達方式にはある種のローカルな「癖」があり、数々の学者が指摘してきた通り、世界でも稀なほど「暗黙の了解」に頼ったものとなっています。濃い文化背景を共有しているので、言葉が足りなくても、相手が察してくれるのです。

 この「察する」に頼るコミュニケーション様式は、グローバルでは通じません。前提となっている「暗黙の了解」が果てしなく少ない世界だからです。グローバル社会の本質は「多様性」にあり、どのような背景の人にも理解できるような話し方をすべきです。そこでは、話し方を「察する」から「確認する」方向に大きくシフトしていく必要があるのです。これは、なかなか大変なシフトです。

 物事を話す順序も内容も変わりますし、質疑応答の機会も格段に増えます。相手が察してくれるだろうと思って必要な情報を伝えなければ「非協力的」だと思われるかもしれませんし、理由や根拠を省いて意見を言うと「不親切」「説明下手」と思われたりしてしまうでしょう。それではビジネスがうまくいくはずがありません。ですから、グローバル・モードで「確認しあう」ためのスキルを身につける必要があります。

(3)ビジネスの進め方

 思想と伝達方法をシフトできてようやく、コミュニケーションの土台が整ったと言えます。ここからビジネスにおけるローカル・モードをグローバル・モードに転換する必要があります。

 というのも、日本の物事の進め方は、海外の方々から見るととてもわかりにくいからです。伝達方法同様、ビジネスでも暗黙の了解が多いのです。

 有名なところでは「根回し」。根回しが終わっていれば、会議はだいたいアリバイ作りで使われ、闊達な議論も合理的な意思決定もありません。根回しは事前に、多くの場合は秘密裡に行われることが多いので、海外の職員からしたら煙に巻かれているように感じてしまうでしょう。プロセスを誰の目から見てもわかりやすいものにしようという努力はせず、むしろ秘密の内側に入ることこそが“できる人間”だという気配すらあります。

 また、「暗黙知」的な仕事の仕方も時にトラブルの元になります。ある技術を売却した日本企業が、相手の海外企業から訴えられた話を聞いたことがあります。売却までは順調に進んだのですが、いざ技術移転という段になって、相手からの「誰にでもわかるように図面と数字が欲しい」というリクエストに対し、「職人を預けてくれれば、手取り足取り教える」と取り合わなかったことが原因でした。

 別に意地悪をしたわけではなく、「現場で習わなければモノにならない」という暗黙知的な伝承は日本企業では常識でしたが、グローバルでは「誰にでもわかるように形式知化する」のが一般的です。相手からすれば、高い値段で技術を買ったのに必要な情報を伝えてくれない、まるで詐欺ではないか、と不信を募らせることになったわけです。

 多様な人々が集まるグローバル・ビジネスでは、「誰からもわかりやすい」やり方を心がけた方がよいのは言うまでもありません。さらに、グローバルならではの多様な意見をうまく引き出し、まとめるスキルを身につけることで、ぐっと成果につながりやすくなります。それがグローバル・ビジネスの醍醐味です。

きれいな英語表現を覚えても、ビジネスで失敗する理由
児玉教仁(こだま・のりひと)
イングリッシュブートキャンプ株式会社代表
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー
静岡県出身。静岡県立清水東高等学校を卒業後、1年半アルバイトで学費を稼ぎ渡米。ウィリアム・アンド・メアリー大学を経済学・政治学のダブル専攻で卒業後は、シアトルでヘリコプターの免許を取得後帰国。1997年4月三菱商事株式会社入社。鉄鋼輸出部門に配属され様々な海外プロジェクトに携わる。2004年より、ハーバード経営大学院に留学。2006年同校よりMBA(経営学修士)を取得。三菱商事に帰任後は、米国に拠点を持つ子会社を立ち上げ代表取締役として経営。2011年同社を退社後、グローバル・リーダーの育成を担うグローバル・アストロラインズ社を立ち上げる。2012年よりイングリッシュブートキャンプを主宰。イングリッシュブートキャンプ社代表も務めるかたわら、大手総合商社各社をはじめ、全日本空輸、ダイキン等、様々な国際企業でグローバル・リーダー育成の講師としてプログラムの開発・自らも登壇している。