「素数日」とは?
ところで、この原稿は2019年の8月11日に書かれたものである。実は、この年と日付けを並べた8桁の数(20190811)は素数だ。このように年と日付けを並べて書いた8桁の数が素数になるとき、その年月日を俗に「素数日」と言う。
2019年は素数日が全部で19日あり、大みそかも素数日である。では2020年の大みそかはどうだろう? 素数日であろうか?
これを確認するためには、「20201231」という数を「2、3、5、7、11、13、……」と続く素数で順々に割っていって、どの素数で割っても割り切れないことを確認する必要がある(Nが素数かどうかを判定するためには、√Nまでのすべての素数で割り切れないことを確認しなければならない)。相当面倒だ。電卓を使ったとしても、途中で投げ出したくなる人が大半ではないだろうか?
でも安心してほしい。現代は実に便利な時代である。インターネット上には16桁くらいまでであれば、その数が素数かどうかを判定してくれるサイトがあるのだ。こうしたサイトを利用すれば、気になる日が素数日であるかどうかはすぐにわかる。
実は、2020年の大みそかは素数日であり、2021年の元旦も素数日である。大みそかとその翌日の元旦が連続して素数日になることは、21世紀の100年間では2回しかない(もう1回は2029年の大みそかと2030年の元旦)。
巨大素数を探せ!
古代ギリシャの時代に、ユークリッド(紀元前300年頃?)によって素数は無限に大きくなり得ることが証明されているのだが、実際に大きな素数を見つけることの難しさは、歴史をひも解いてみるとよくわかる。中でも1588年にピエトロ・カタルディ(1548~1626)の手によって見つかった6桁の素数(524287)が「実際に発見された最大素数」の座に君臨した時期は長かった。
1732年に当時25歳のレオンハルト・オイラーの手によってさらに大きな7桁の素数が見つかるまで、実に144年もの年月がかかっている。ちなみにオイラーはその40年後に10桁の素数も見つけている。そして1876年にはエドゥアール・リュカ(1842~1891)が39桁の素数を見つけているが、これは手計算によって発見された最も大きな素数である。
2019年8月時点で、実際に見つかっている最も大きな素数は約2480万桁のとてつもなく大きな数であり、GIMPS(Great Internet Mersenne Prime Search)と呼ばれるコンピュータプロジェクトによって2018年に発見された。
GIMPSでは、ネットワークを介して世界中のコンピュータを接続し、1台の高性能なコンピュータを仮想的に構築するという技術が使われている。これを分散コンピューティングという。
このプロジェクトは、1996年にマサチューセッツ工科大学でコンピュータサイエンスの学位を取得したジョージ・ウォルトマン(1957~)がソフトを開発し、これを公開したことから始まった。発足当初は電子メールによって素数判定を依頼するという原始的な手法が使われていたようだが、現在では1秒間に2兆回の演算を実行できるアメリカのエントロピア社のシステムが利用されている。
GIMPSには誰もが参加することができて、参加者はインターネットから無料でダウンロードできるソフトウェアを用いて、素数探索の手助けをする。巨大素数の発見に一役買いたいという方は、参加してみるといいだろう。
(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)