私は自分の業務の効率化のために、自費でワープロを購入して、業務文書をワープロで作成し始めた。当時の給料1カ月分くらいの出費だったが、手書き文書に比べて読みやすく修正が容易で、5分の1ほどの時間で作成できるという業務効率の向上を実感していた。
しかし、そのことに対して、文書作成を指示した人から異論が出たのだ。「手書きで文書作成することを指示しているので、指示に従うべきだ」「ワープロ文書は無効だ」「他の人はみな手書きしているので、他の人に合わせるべきだ」というわけだ。私は、なんと妙なことを言うのだと思い、無視してワープロを使い続けた。
その後、月を経るたびに、同じように自費でワープロを購入して、ワープロ文書を作成する人が増えていった。会社は黙認し、そのうち容認するようになった。部署によっては、半分近くのメンバーが、おのおののワープロを持つようになり、会社のデスクに自分が購入したワープロを置いて仕事をし、また、それを持ち帰って仕事をするようになったのだ。
そのうちに、「会社がワープロを購入すべきだ」と申し出る社員が出てきた。それに対する会社からの返答がふるっていた。「鉛筆やボールペンなどの筆記具は、社員が持参して使用している(当時はそうだった)。ワープロは筆記具だ。したがって、使用するならば、社員が自費で購入して持参するべきだ」というものだった。うまいことを言うものだと感心したことを、今でもよく覚えている。
リモート会議を社員個人の
負担でやらせる企業
これと同じことが、今日のリモート会議をめぐって起きている。会社が禁止したり、セキュリティーのロックをかけていたりするので、自分のPCやスマホで、リモート会議に入る。それをしないと、社内外の会議が進まない。ワープロの自費購入に比べれば、出費はほとんどないが、それでも個人のアイテムを使用させていることには変わりない。
なかには、会社のメールアドレス自体にメールの送受信やその確認などの制約があるので、プライベートのメールアドレスで担当者とやりとりしている企業もあるほどだ。
社員がリモート会議を多用しているのは、取引先や、演習主催企業から依頼されているからで、歴とした業務だ。多数の取引先や社員が使っているのは、その必要性が高いなによりの証左なので、それを禁じていることは、社員のパフォーマンス向上を阻害していることになりかねない。