発酵食品「酒」に含まれる成分とは?

糖尿病歴20年の「獺祭」蔵元がエキスパートに聞く 「発酵」と「免疫力」の関係村中麻生(むらなか・あさお)
ダ・ヴィンチ ユニバーサル代表取締役
東京医科大学医学総合研究所研究員、国際抗老化再生医療学会理事、野口英世医学研究所理事・主任研究員、日本抗加齢医学会認定医専門医など他多数兼務。

村中 腸内環境を整えるうえで特に注目したいのが、甘酒などの発酵食品です。発酵食品は善玉菌を優勢にするので、それを摂取することで腸内の善玉菌が増えるのと同時に、悪玉菌を減らすことができて、便秘解消や風邪予防に有効だと言われています。そして、発酵食品にはビタミンCやカロテン、ポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富ですから、体内の活性酸素を除去することによりバランスを整えたり、美肌に必要なアミノ酸や酵素を摂取できるようです。日本酒も、発酵食品のひとつですね。日本酒には、アミノ酸、ビタミン、ミネラルのほかに、体内で作り出せない必須アミノ酸など120以上の成分が含まれています。

落谷 私は毎夏、母に甘酒をプレゼントするんです。高齢になると、タンパクアミノ酸や水分が不足しがちですが、甘酒は冷たいまま飲めば、そのすべてを摂ることができるので。

村中 甘酒は「飲む点滴」ともいわれますよね。日本酒の栄養素を調べると、アミノ酸の含有量は、ほかのお酒と比べても圧倒的に多い。体内で生成できない必須アミノ酸のリジン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシンのほか、運動時のエネルギー源になる内分泌・循環器系機能の調整や成長ホルモン分泌を刺激するアルギニンや、免疫機能の維持や消化管の保持をするグルタミン酸などの様々なアミノ酸がバランスよく含まれています。血行促進効果のあるアデノシンも含まれているので、飲んだ後はからだがポカポカしたり、お風呂に入れると湯冷めしづらくなったりします。また麹や酒粕の中には、メラニンを生成するために重要な酵素のチロシナーゼの働きをおさえる物質が豊富に含まれているようです。

桜井 酒は米と水でつくるんだから、糖だけ残りそうなものだけど、ビタミンやアミノ酸なども豊富に含まれるというのは不思議ですよね。そこが、蒸留酒にない魅力だろうけど。

村中 薬の場合は良い点だけでなく副作用が多かれ少なかれありますし、食品等との飲み合わせにも注意が必要ですね。例えば、高血圧の薬をグレープフルーツジュースと一緒に飲むと血中濃度が高くなってしまい、血圧の過度な低下が引き起こされたりします。その点、食品は副作用がなく安全です。ですから、できるだけ食品で必要な栄養を摂り、健康を維持できるのが理想です。お酒はアルコールですから大量の摂取は控えなければいけませんが、1日平均30グラム程度までであれば、虚血性心疾患や脳梗塞、2型糖尿病などの病気ではむしろリスクが低下するとも言われています。

桜井 古来、「酒は百薬の長」という言い方もあるわけですが、科学の世界でまさにそういう働きが認められているわけですね。

食事もサプリメントもバランスが重要

落谷 微生物と共存することが大事だ、というのは、共同研究を通じて桜井会長から受けた教訓のひとつですね。微生物の中には悪玉も善玉もいるけれども、たとえばバクテリアのような悪玉の恩恵も受けている。われわれ哺乳類の細胞と、善玉も悪玉も微生物とがコミュニケーションをとって、それがスムーズなら健康だし、遮断されて悪いサインを受け取ると、がんなどの病気になります。いまわれわれは、AIを活用して「何をどういうふうに食べればよいのか」その人の状態にあわせた食材や栄養素を解析して提供できないか研究していますが、それにより発酵や微生物についても科学的に解き明かしたいと思いますね。それが、がんになる前の前がん状態から元の健康な状態に戻せる、新しい予防医学につながると思います。

村中 大豆や穀物、発酵物といった食品の場合も、特に「旬」に食べると、ミネラルやビタミン等が最大化していて、なんらか免疫力に作用する物質も最大限摂れるということだと思います。日々良いものを摂り、免疫力を高めて「未病」で踏みとどまり、新しい感染症や生活習慣病、がんなどへの備えをするには「食が一番大事」だと思っているところです。とはいえ、「これが効く」というのではなく、バランス良く、過不足なくいろいろなものを摂り入れることが大事です。

落谷 「血管の老い」がすなわち「老化」ですから、脳においても体の機能においても血管は大事ですね。いかに血管を若く保つかという点でも、バランスのよい食事が重要です。私は27年間がんを研究してきた中で、新型コロナウイルスがはやったこの数ヵ月で考えたことは、「がん」への対応だけじゃだめだ、ということでした。未知のウィルスや細菌と共存する社会をどう実現していくか、新たな時代を迎える気持ちを持たなければいけない。現状を打破するには新薬やワクチンだけでは不十分であり、基礎体力、基礎免疫力を養っておくためにも普段の「食」こそが重要です。

村中 サプリメントも、「鉄を摂るといい」「葉酸がいいらしい」と聞いてはたくさん飲んでいらっしゃる方もお見受けしますが、場合によっては害になることもあります。本当に自分に足りないものを補うようにしたいものです。風邪予防には、日光に当たるとよいと言われています。新型コロナウイルスも、ビタミンD3が効果があると言われているようですし、サプリメントで摂るのも良いですが、今の時期ならば日光に手のひらを10分から15分当てるのも有効です。

桜井 発酵の技術を使ってなんらか「未病」へのお手伝いができれば、酒蔵のおやじとしては本望なので、そういう商品が開発できないのか研究を続けていきたいと思います。本日はありがとうございました。