「社内政治を制するものがコミュニティを制する」

小島:ファーストピンとなるのは、ほかの人に製品やサービスの良さを伝えたくなると思う人のこと。僕はオートバイが好きなんだけれど、かつてバイクに乗っていた人に時々「そろそろ復活したらどう?」と誘っているんです。「あの店がいいから行こう」と声をかけたりして。そうすると、バイクに乗り出す人が出てくるんですよね。

 これと同じで、黙っているけれど実はファンである人に声をかけるような存在が、ファーストピンになり得るんですよね。薦める人とそれに着いていく人がセットになって、コミュニティが回りはじめるんです。

河原あずさん(以下、河原):コミュニティ運営者は、どういう人が向いていると思いますか。製品やサービスへの愛情を持っていないともちろんダメでしょうが、ほかには広めたいという思いがあること、でしょうか。もしくは、コミュニティ運営者がファーストピンの一部になることもあるのでしょうか。

小島:コミュニティをリードする人が製品やサービスの一番のファンであり、ファーストピンであるケースは、実は多いんですね。だからコミュニティ参加者も同質性を感じて付き合いの輪が広がっていくわけです。

藤田:コミュニティ運営者が注意すべきポイントはありますか。

小島:細かいスキルを挙げれば切りがないけれど、何よりも大切なのが製品やサービスに愛があることです。と同時に、会社に要求できる力も必要ですね。「コミュニティを広げるにはこんなサポートが必要です」と会社と話ができるかどうか。継続をすることを前提に、環境を整えていかないと、途中でクローズすることになりますから。

 「社内政治を制するモノがコミュニティを制する」というのは、優秀なコミュニティ運営者の女性の名言です。誰がステークホルダーで、誰に情報を渡すべきなのかを把握していないと、混乱に巻き込まれてしまますから。

藤田:企業の業績が悪化すると、どうしてもやり玉に挙がるのがコミュニティですよね。

小島:コミュニティ運営者は、きちんと「そんなにお金を遣っていませんよね」と説明しなくてはなりません。これが向いていないタイプだと、「会社は分かってくれない」と逃げてしまうわけです。ただ、これはトレーニングで鍛えることができます。

 それよりも難しいのが、人に好かれるスキルです。コミュニティ運営では、人事権もない相手に、協力してもらわないといけません。それができるかどうか。これは一重に愛されるかどうかですよね。

河原:確かにコミュニティ運営者の中には、愛されキャラの方が多いですよね。利害関係の調整や社内政治ができて、したたかでいられること。周囲の環境を観察して対策が打てる人が、向いているように感じます。

小島:誰がOKを出せばいいのかが分かる人。企業の中のファーストピンを見抜く力は求められますよね。コミュニティを運営していると、自分の部門だけでなく複数の部門にまたがって調整をする必要がありますよね。そこがコミュニティ活動の難しさを倍増させているように感じます。