不況が引き起こすパラダイムシフトはスタートアップの勝機でもある

村上:まさにそうですね。もう一点思うのは、不況期にはマクロのニーズ変化やパラダイムシフトが世界的に起きやすいということです。例えば、リーマンショック時には、従来は高コストでも何も疑わずに行われていたことに対して、効率化のニーズが一気に高まりました。

このような新たなニーズや考え方の変化が、さらに新しいテクノロジーの登場と重なると、大きなパラダイムシフトが起きます。大きなマクロのダイナミクスの変化によって、世界全体で人々の行動様式、働き方、ライフスタイル、考え方など、様々な変化が生じるでしょう。

それはつまり、既存のサービスとマーケットニーズのギャップ・歪みが非常に生じやすいフェイズということです。なので、新たなニーズを一番先にとらえることができるという意味では、新しい事業を創業するタイミングとして、好機である。

こうした変化の局面でファーストムーバー(先行者)として逃げきれるチャンスもあるというところも、非常に面白いんじゃないかと感じています。

朝倉:結局のところ、既存の仕組みに縛られる必要がなく、変化に即して柔軟に大胆な新しい手段を提示できることが、失うものが何もないスタートアップの一番の強みですからね。既存のビッグプレイヤーはすでにアセットや人を抱えているために、なかなか一気に戦い方を変えられない。

これはスタートアップにとってのチャンスでもある。スタートアップは「治世の能臣」ではなく「乱世の奸雄」を志向しないと。ここまで、不況期のスタートアップのあり方について話してきましたが、結局のところ、順境期の戦い方と、不況期の戦い方というものがあり、その違いを認識して順応していくということなんだと思います。

バブル期にはバブル期の利点があります。日本でいえば、ITバブルがあったからこそ、楽天やサイバーエージェントのような新興プレイヤーが追い風を受けて台頭することができたわけです。バブル期の追い風を掴んで大胆に仕掛けるという戦い方もある。

一方で、不況期には、違う立ち居振る舞いが求められる。闇雲な拡大よりも、粛々と事業・プロダクトを磨き、事業を育てていくことにより力点が移っていく。どっちが正しい、どっちが間違いという話ではなく、周辺環境の違いによって戦い方のパターンが変わってくるということなのだと思います。

個人的には、不況期だからといってそんなに落胆する必要もないと思います。いつの時代だって新しいニーズはあるし、そこに訴求するソリューションを提供することができれば、時間はかかっても、より骨太な事業を作ることができるのですから。

こんなご時勢だとどうしても暗い面に目が行きますが、創意工夫で骨太な事業を自分たちがつくっていくという気概を持ちたいものです。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/4/19に掲載した内容です。