不況後は「IPO待ち」の列が長く伸びる

朝倉:新型コロナウイルスがトリガーになるということは誰にも予測できませんでしたが、過去数年、どこかのタイミングで市場に調整が入るということは、多くの人が指摘していたことです。

2019年12月には駆け込み的な上場が相次ぎました。起業家側も、今の潮流を逃すまいといった思いで上場に向けて活動していた会社も少なくなかったように思います。

IPOには時間をかけて入念な準備が必要であり、良い時機が来たからといってすぐに上場できるものではありません。一方で、十分に機が熟し準備が整ったと思った矢先に、何らかの外部要因によって急激にマーケットが崩れると、本来の価値を評価されづらい状況に陥ります。

会社にとって、IPOはタイミングを見定めるのが難しいイベントです。

村上:そうですね。リーマン・ショックの直前を思い返すと、エクイティだけではなくCB(Convertible Bond。転換社債型新株予約権付社債)やレバレッジ・ファイナンスなど、世界中で大きな資金調達が実施され、ある種の資金調達ブームが起こっていました。

ただ、サブプライム問題が起こるなど、2008年に入って市場環境が悪化したことで、クレジットの低い会社の案件にお金が集まらなくなり、案件自体がローンチできないということが多発しました。

リーマン・ショックが起きる前だと、徐々に環境は悪化していたものの、資金調達ニーズは継続してありました。調達したいけどできない会社、それが在庫としてどんどん資金調達市場に滞留していったのです。

今回のように、投資資金が急にマーケットに出てこなくなると、資金調達したい会社は増える一方で、実際に資金を確保できる会社は限られるために、「調達待ち」の会社が増えることになります。

実際、既に未上場スタートアップの資金調達では同様のことが起きています。そのため、新型コロナウイルスの影響が1年を超える長期的な事象だとしたら、その期間の分、IPOしたい会社が列になって並ぶことになります。

そうなると、翌年以降にIPOをずらした会社と、当初からそのタイミングをターゲットとしていたIPO予備軍の会社の列が重なることになり、マーケットが回復した後もしばらくは投資需要の食い合い、選別が起きることでしょう。

リーマン・ショック当時を振り返ってみても、マーケットが悪化した中でいち早く資金を調達した会社が、先行してマーケットに流通している資金を一定程度抑えてしまうということが起こりました。大企業による大規模ファイナンスです。

ようやく投資家の投資意欲が回復してきた時に、調達ニーズが強く大きい特定のプレイヤーがいると、資金がそこに集中してしまうことがあるわけです。このように、投資マーケットが回復する初期には、ちょっとしたノイズが生じることも考えられますね。