難局を乗り越えた先には上げ潮が待っている

村上:あわせて、再成長のためのストーリーを見直すことも重要です。

マーケットが回復するまでの2~3年のタイムラグのうちに、市場のニーズが変わることも十分に起こり得ます。そうなると、もともと想定していたエクイティストーリーが弱まってしまいかねません。そういう意味でも、戦略面をもう一度見直すことが、こうした局面では重要だと思います。

小林:市場の変化を踏まえ、戦略や組織面を根本から見直さなければ、その後の再成長や継続的な成長までなかなか見通しづらいということですね。

村上:そうですね。加えて、IPO環境が数年間は厳しいことを想定すると、既存の投資家との期待値のギャップはどうしても生じると思います。

「バリュエーションの考え方・ロジックも事業戦略も見直すので、IPOはあと数年待ってください」と経営者がコミュニケーションすると、既存投資家の視点と起業家の戦略的視点のズレが顕在化することもあると思います。

そうした状況に対して考えられる打ち手の1つが、投資家の入れ替えです。既存投資家の保有する株式をセカンダリーで第三者に売却する可能性や余地があるかを、探るべきタイミングかもしれません。

朝倉:500 Startupsの創業者であるデイブ・マクルーアも、現在はセカンダリー専門のファンドを設立しているそうですね。

村上:急激なマーケット環境の悪化を乗り切れるかどうかは、起業家がIPOのタイミング、エクイティストーリーの再構築、株主の入れ替えといった、様々な手を適切に打てるかにかかっていると思います。

朝倉:2014年前後、マザーズのIPO数が急激に回復してきた際のスタートアップを見てみると、SHIFT、弁護士ドットコム、ブイキューブ、カヤック、ホットリンク、オイシックス、じげん、アライドアーキテクツなど、ライブドア・ショック前に設立されて、リーマン・ショックを乗り越えてきたスタートアップが少なくありません。

急激なマーケット環境の変化を乗り越えたスタートアップが、地道に事業をつくり上げ、もう一度市況が回復してきたタイミングで上場を果たしたというファクトも実際にあるわけです。

どこかのタイミングで確実にマーケット環境は良くなるわけですから、あまり悲観的にならず、腰を据えて骨太な事業を構築していくべきなんでしょう。

村上:その通りだと思います。IPOマーケットの扉は閉まるときは一瞬ですが、確実に開くことは歴史が証明しています。扉が開いた後には上げ潮が待っているということもまた、歴史が証明していることです。前向きに取り組んでいきましょう。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/4/26に掲載した内容です。