6月12日公開の本連載で取り上げた「露店経済」が、中国でますます勢いを増している。かつては景観の悪さから、国を挙げて排除してきた存在だったが、今や失業者や工場で積み上がった在庫を吸収し、中国経済を復活に導く作用をもたらしている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
コロナ禍で工場に積み上がる在庫の山
中国は言わずと知れた貿易大国だ。1978年の対外貿易額はわずか206億ドルだったが、2018年には4兆6200億ドルと、改革開放から40余年で対外貿易額はおよそ200倍の規模になった。78年当時、中国の貿易パートナーは数十の国とエリアだったが、それが今では200を超える。
その中国が、新型コロナウイルスの影響で痛手を被っている。中国はひとまずコロナ禍を切り抜けたとはいえ、肝心の貿易相手国の小売業が大ダメージを受けているからだ。中国の輸出先は6割超が先進国であり、三大貿易パートナーはEU、米国、東南アジアであるが、EUも米国もこのコロナ禍で国民は買い物を楽しむどころではない。
結果、中国の工場には注文キャンセルの通知ばかりが舞い込んでくる。中国の繊維・服飾といえばEU、米国、日本が三大市場だ。けれども、米老舗ブランド「ブルックス・ブラザーズ」が破産を申請、英「ローラアシュレイ」が倒産したように、瀕死の状態に置かれた欧米有名ブランドは少なくなく、日本のユニクロでさえも順風満帆とはいえない状況において、今後は厳しい経済環境が予想される。リモートワークが新常態となった今では、「服に金をかけない」という消費傾向が定着してしまう可能性すらある。
18年、中国の繊維・服飾産業は2767億ドルを輸出し、前年対比3.7%の成長となった。しかし、19年は米国による高関税政策の影響により生産企業の利益が縮小した。そして今年はコロナ禍が襲い、業界をさらなる苦境に追い込んでいる。
その結果、工場には瞬く間に在庫が積み上がった。当然、企業側もリストラを断行せざるを得ない。中国政府は職場復帰を急いでいるが、従業員が生産ラインに戻ってきたところで仕事はなく、今年3月の時点では「明日から来ないでいい」と従業員に指示する工場さえあった。中国の経済誌「財経」(記事公開3月23日)の調査(全国60都市を対象、有効回答数648)によれば、6割以上の企業が「減給・リストラ」を検討していた。