この5年で音楽業界は激変した。かつて音楽業界の黄金期を築いたCDなどの「音楽ソフト市場」を「音楽コンサート市場」が追い抜き、主役が逆転したのだ。そこへコロナ禍が襲い掛かる。特集『コロナは音楽を殺すのか?』(全11回)は、レコード会社、プロモーター、ミュージシャン、作詞家・作曲家、舞台スタッフ、チケット会社、音楽ジャーナリスト等、さまざまなステークホルダーへの取材を基に「有史以来最大規模の危機」に直面する音楽業界の現状に迫る。#02では、コロナ禍によって窮地に立たされた音楽業界の現状と、取材で明らかになった音楽関係者の窮状を伝える約40の「生の声」を紹介する。(ダイヤモンド編集部編集委員 クリエイティブディレクター 長谷川幸光)
「自主ロックダウン」から
音楽業界は長い苦難の道へ
「規模の大小にかかわらず全てのライブやツアーが中止または延期となりました。生演奏ができる場を保護してほしいです」(スタジオミュージシャン)
「人が集まることが難しいため、技術を生かす場所がない。音楽はこれまで多くの人に勇気や安らぎを与えてきたはずなのに、再開や支援に向けた施策の優先順位がとても低いと感じて残念だ」(サウンドエンジニア)
「コロナがある程度落ち着いたとしても、今後どれだけの人がこの業界で働けるのか、どれだけの人がこの業界を目指してくれるのか、非常に心配です」(フリーランスの舞台照明)
「『音楽などなくても死なないだろう』と多くの人は思っているかもしれないが、音楽そのものではなく、その経済構造に目を向けないと何が問題の根底なのか、理解が難しいと思う。音楽というのは多種多様な業種が関わっているので、これがダメになると連鎖的に経済が破綻する。1年後、そのことが社会問題となっているだろう」(音楽プロデューサー)
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令される41日前の2020年2月26日。音楽業界は自粛を決定した。当面の間、ライブやコンサートといった音楽イベントを実施しないことにしたのだ。しかしそこから音楽業界の長い苦難の道が始まる。
緊急事態宣言が解除されても、「3密」を名指しされた音楽業界は、ライブやコンサートを再開するめどがまったく立たず、経済から取り残されたままだ。冒頭のコメントは、それに対する音楽従事者の嘆きの声である(記事末にそのほか30以上の「生の声」を掲載)。
本特集#1『フジロック、サマソニ…4大フェスが音楽界の主役をかっさらった7つの理由』で述べたように、音楽フェスの市場規模は2019年、過去最高の330億円へと達し、国内のライブやコンサート市場も同年に4237億円と過去最高を更新したが、2020年はこれが一転。ぴあ総研によると、1241億円(2020年6月30日時点の調査速報値)と、前年の3割にも満たない水準になるとみられている。
国内の音楽業界がなすすべもなく経過を見守る中、海外ではレディー・ガガが発起人となり、医療従事者へのチャリティーコンサート「One World: Together At Home」をオンライン上で開催。スティーヴィー・ワンダーやザ・ローリング・ストーンズといった豪華アーティストが参加し話題となった。
お隣の韓国では、世界的な人気を誇るボーイズグループ、BTS(防弾少年団)がコンサートやファンミーティングと最新技術を組み合わせたオンライン上のイベントを開催。約224万人が同時視聴した。その後にマルチビュー機能を備えて開催した無観客ライブでは75万6600人が有料の視聴チケットを購入し、一晩で19億円以上を売り上げた(本特集#9『BTS、NiziU…韓国・中国の最新事情に学ぶ「コロナ後の音楽業界」』参照)。
こうした中、日本でも状況を打破しようと動く者たちが現れ始める。