サザンが無観客ライブを
行った真意とは?
東京発のポップバンド・Ceroがライブを有料配信し、音楽業界の口火を切ると、「ライブに対価を払うという当然のことを気づかせてくれた」といった声がツイッター等に多く寄せられ、興行的にも大成功を収める。
5月23日と24日には、ジャズ音楽のフェスティバル、東京JAZZ(今年から「TOKYO JAZZ +plus」へと名称を変更)が、オンライン上で開催された。音楽フェスほどの規模のイベントをオンライン上で実現したこと、そして世界的なジャズミュージシャンの演奏を自宅にいながら楽しめることに称賛の声が巻き起こった(本特集#5『フェス「東京JAZZ」統括プロデューサーが会得したオンライン開催の要諦』参照)。以降、国内でも音楽イベントのストリーミング配信が活況を迎える。
とりわけ大きな動きが、サザンオールスターズである。6月25日に神奈川・横浜アリーナで無観客ライブを敢行し、それを有料で配信した。約18万人が3600円(税込み)の視聴チケットを購入し、単純計算で約6億5000万円を売り上げたことになる。横浜アリーナで通常のライブを行った場合、サザンオールスターズ級となるとチケット代だけで1億5000万~2億円の売り上げが見込める。それと比較するとサザンオールスターズの有料配信がいかに驚異的な成功を収めたかがわかるだろう。音楽業界にとって一筋の光明が見えた瞬間でもあった。
しかし、考えてみてほしい。有料配信でこれほどの利益を得ることができるのは、むしろ国内ではサザンオールスターズ級の「超大物」のみということでもあるのだ。
そして忘れてはいけないのが、音楽業界というのは日の当たるところばかりではないということだ。リスナーの目に入りやすいアーティストやライブハウスは多くの人が心配してくれる。しかし、音楽業界の根幹を支えているのは、実は舞台や楽器、照明スタッフなど、彼らに光を当てている人たちなのだ。
サザンオールスターズの桑田佳祐は無観客ライブで、医療従事者やファンと共に、身近なライブスタッフへの感謝を伝えている。無観客にもかかわらず横浜アリーナへ貸し切りの費用を払い、40台のカメラを用い、400人を超えるスタッフを雇用したことにもその思いが表れている。
音楽市場の主役の座がコンサート市場に移ったということは、それに従事する多くの人の生活をこうしたライブが支えているということでもある。特殊な技術を求められる音楽業界はフリーランスが多く、音楽イベントがゼロになれば、必然的に収入もゼロとなる。その家族まで含めると、相当な数の人が路頭に迷うこととなるのだ。