音楽業界の存続を
脅かす事態が起こっている

 これを救おうという動きもある。政府は2020年度第2次補正予算案で560億円を文化芸術支援に組み込んだ。しかしこれが最終的にどのように分配されるかはわからない。

「プロモーターなど、ライブをやるときに最初にお金が集まるところには銀行はお金を貸してくれる。つらいのは制作会社や個人事務所、そしてフリーランス。『再開したらまたお願いするので今回は泣いてほしい』と言われるだけで運転資金が底を突く。ここをまず助けなければならない。政府からの補助金なんて焼け石に水。すぐさま融資しないとあっという間に彼らは廃業してしまう」(チケット会社幹部)

 こうした声に押される形で、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会の3つの団体が、ライブエンターテインメント産業の従事者を支援するための基金「Music Cross Aid」を6月に立ち上げた(本特集#7『音楽業界のドンに直撃!ガイドラインを巡る国との交渉、コロナ後の世界…』参照)。

 また、サマーソニックを主催するプロモーター、クリエイティブマンは、9月に数万人規模の音楽フェス「スーパーソニック」をリアルイベントとして開催することを表明した(本特集#6『サマソニ主催者が激白!音楽ファンが知らない「フェスの裏側」』参照)。

 音楽業界の再起動に対し、「ライブなんて時期尚早だ!再開するなんて理解できない」「時間がたてばワクチンはできるのに、なぜそれまで待てないのか」という声は多い。一般の人からすると、むしろ当然の感覚でもある。しかし今回のコロナ禍における音楽業界の被害の本質は、業界を裏で支える人たちが人知れず廃業へと至ってしまうことにある。それは「音楽業界だけでなく日本にとっての文化の喪失」(東京JAZZ統括プロデューサーの山中宏之氏)でもある。

 CD販売の落ち込みどころではないのである。音楽ソフト市場と音楽コンサート市場、双方を含めた音楽業界の屋台骨を揺るがす事態が起こっているのだ。今後、コロナ禍が終息したとき、果たして音楽業界は息を吹き返せるのか?音楽業界は今まさに過去最大の苦境に立たされている。

 次ページでは、取材で明らかとなった音楽従事者の「生の声」を掲載した。