中国が「妨害」しても
李氏が訪米できた理由

2018年、台湾出身戦没者の慰霊祭で沖縄を訪れた李氏2018年、台湾出身戦没者の慰霊祭で沖縄を訪れた李氏 Photo:KYODO

 東西冷戦が終了したとき、私も含め誰もが、米国の覇権が確立したと考えた。だが実際に起きたのは、米政治学者サミュエル・ハンチントンが言うような文明の衝突だった。フランシス・フクヤマ氏は「歴史は終わった」と言ったが、その主張はあまりに早過ぎたのである。01年の同時多発テロで、米国は中東問題に足をすくわれてアジアから後退した。08年のリーマンショックで、経済的な地位も失陥した。いま世界には、リーダーシップを取る国家が存在しない。

 だが米国による一極支配の時代が終わった今、私が言いたいことは逆説的ではあるが、「米国との関係がますます重要になる」ということだ。それは米国による軍事の傘で守ってもらう、というような話ではもはやない。より密接で対等な同盟関係を追い求めていく必要があるのだ。むしろ米国もそうした互恵的な関係を望んでいるのではないか。トランプ大統領の発言から私はそう感じている。日本は米国との間で、率直な対話に基づく対等なパートナーシップを築くことを考えるべき段階に来ている。

 米国は民主主義を標榜する社会だ。経済的には中国との関係が利益にはなるが、こうした状況でも民主主義国家としての良心を発露させてきたのが米国の議会だ。私は95年に米コーネル大学のフランク・ローズ学長から招待されて訪米した。大学の特別講座で講演をするのが目的だったが、私が訪米を画策していることが伝わり始めると案の定、中国が妨害を開始した。現役の台湾総統の訪米は、当時のクリントン政権にとっても頭の痛い問題だったに違いない。だが、すごいのは議会だ。私を訪米させようと言って、上下院で採決までした。米国は民主主義を、経済的利益よりも上位の価値として認めているのだ。

 日本の場合は残念ながら、こうしたときの反射神経というか、反応が鈍い。中国に大きな幻想を抱いている国会議員や外務省の「チャイナスクール」と呼ばれる官僚、新聞記者が多過ぎる。インターネットが普及し、これだけ情報の獲得が容易になった現在、日本も大きく変わるべきではないか。

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