一流のリーダーは「すぐれたコーチ」である

 会社の人材が資産として扱われるべきだということは、多くの研究や企業幹部の発言が示す通りだ。しかし企業幹部は業績を高める方法を探す際に、マネジメントのカルチャーに十分目を向けないことが多い。これは間違いだ。

 1999年のジェフリー・フェファーらの論文によると、マネジメント手法の評価が平均から1標準偏差上がるごとに、従業員一人当たり時価総額が1万8000ドル増加した。

 また、2008年のグーグルの社内調査「プロジェクト・オキシジェン」(ビルのお気に入りの調査だ)は、最高のマネジャーがしている「8つの行動」を特定した。

 調査結果によると、8つの行動を日々実践するマネジャーを持つチームは、離職率が低く、満足度が高く、業績がよかった。これらの行動リストの筆頭に挙がったのが「すぐれたコーチであること」だった。(中略)

 ビルは自分の後を継いでインテュイットのCEOになったブラッド・スミスに、毎晩眠りに就く前に、自分のために働いてくれる8000人のことを考えろと言った。

 彼らは何を考え、感じているだろうか? 彼らが最高の自分になれるように手助けするにはどうしたらいいか?

 NFLの殿堂入り選手ロニー・ロットは、親しくしていた二人のコーチ、ビル・ウォルシュ(アメリカンフットボールの名コーチ)とビル・キャンべルについて、こんなふうに話してくれた。

「すぐれたコーチは選手をどうやってよくするかを、夜も眠らずに考える。選手がもっと力を出せるような環境をつくることに喜びを感じる。コーチというものは、絵に的確に筆を入れようとする画家に似ている。コーチが描くのは人間関係だ。ふつうの人は、他人をよくする方法を考えるのに時間をかけたりしない。だが、コーチはそれをやる。それが、ビル・キャンべルのやったことだ。分野はちがっても、いつも同じことを彼はやっていた」

「夜眠れなくなるほど気にかけていることは何か?」とは、企業幹部がインタビューなどで聞かれる定番の質問だ。

 ビルの答えはいつも同じ、「部下のしあわせと成功」だった。

(本原稿は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ──シリコバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』〈櫻井祐子訳〉からの抜粋です)

エリック・シュミット(Eric Schmidt)
2001年から2011年まで、グーグル会長兼CEO。2011年から2015年まで、グーグル経営執行役会長。2015年から2018年まで、グーグルの持株会社アルファベット経営執行役会長。現在はグーグルとアルファベットのテクニカルアドバイザーを務めている。

ジョナサン・ローゼンバーグ(Jonathan Rosenberg)
2002年から2011年まで、グーグルの上級副社長としてプロダクトチームの責任者を務めた後、現在はアルファベットのマネジメントチームのアドバイザーを務めている。

アラン・イーグル(Alan Eagle)
2007年からグーグルでディレクターとしてエグゼクティブ・コミュニケーションの責任者、セールスプログラムの責任者を歴任している。

3人の著書に世界的ベストセラー『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』(日経ビジネス人文庫)がある。

櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中に、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『第五の権力』『時間術大全』(ともにダイヤモンド社)、『NETFLIXの最強人事戦略』(光文社)、『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版社)などがある。