むし歯の数で夫婦仲がわかってしまう!?

――『世界の一流はなぜ歯に気を使うのか』を読むと、そもそも「正しい口腔ケア」、つまり感染や日々の歯みがきなどについての正しい知識がなかったし、間違ったケア術が氾濫していることも知りました。

森下:稲葉先生は、むし歯予防についてはどんなアドバイスをされているのですか?

稲葉:むし歯は、細菌感染症ですよということをまず知っていただくのが大事ですよね。特に、若い世代だと、夫婦とかカップルで受診されると、むし歯の数がものすごくよく似ているんです。それは、キスが口腔細菌の交換になりますからね。ところが、中高年世代になるとあまりそういうことがない。キスしなくなるんでしょうね(笑)。

森下:むし歯予防を考えると、できればキスする前にイソジンうがい薬で消毒してほしい(笑)。

稲葉:本当は、生まれたての子どものときから、口移しや同じスプーンで食べ物・飲み物を与えないということが徹底できると、両親などからむし歯菌をもらわずにすむんですよね。こうした知識ももっと多くの人に知ってほしいですね。

むし歯になりたくないなら、歯磨き粉はつけて磨くべし

森下:稲葉先生は、歯磨きのときに歯磨き粉をつけるように指導しているのですか?

稲葉:歯磨き粉はつけないほうがいいという説が一部にありますけど、そんなことはありません。例えば、安いビジネスホテルの備え付けの歯磨き粉に多い、ミントの香料と発泡剤くらいしか入っていないようなものは、使わないほうがいいと思います。泡と清涼感で磨いた気になってしまって、磨き残しが起きやすいですから。

むし歯予防が目的であれば、フッ素が配合されているものを選びましょう。臨床研究や疫学研究からフッ素の虫歯予防効果は実証済みです。なおかつジェルタイプはお勧めですね。

森下:ジェルタイプはいいですね。泡立ちがないので、磨き残しが起こりにくく、しっかり磨けます。またフッ素は、20歳を過ぎたらあまり効果がないといわれていますが、中高年世代で歯茎が落ちてきたら再び必要です。歯茎が下がり根っこが露出した部分にできる「根面う蝕」の予防にはフッ素は効果的です。

稲葉:ついでに言うなら、歯磨き粉は目的に合わせて、朝昼晩で使い分けてもいいですよね。例えば、朝と昼はホワイトニングタイプ、夜は歯周病予防といった感じで。

森下:そうですね。また20歳以降は、歯周病予防の用途の歯磨き粉は日常のホームケアに必ず加えてほしいアイテムですね。

――ところで『世界の一流はなぜ歯に気を使うのか』では、歯みがきが終わった後でも、歯磨き粉を完全にゆすがないでいいと説明していました。これは「スウェーデン式歯磨き」と呼ばれている方式のようですが、きれいに洗い流さなくていいのですか?

森下:フッ素のような機能的な成分が入っている歯磨き粉なら有効だと思います。すごく意識の高い人は、2回磨いて、1回目はきれいにすすぎ、2回目では歯磨き粉を口中に残しているようです。

稲葉:気になるようなら水ですすいでもいいと思いますよ。私は細かいことよりも、「スウェーデン式歯磨きをやってみよう」とか、それくらい歯への意識が高いことが大事だと思います。それだけ口腔ケアへの関心が高いなら、むし歯にもなりにくそうですね。

森下:子どもの頃から、フッ素入りの歯磨き粉だけじゃなく、フロスも使って、洗口液も使ってと、そのくらい高い意識でホームケアが継続できていると、むし歯も劇的に減ると思うんです。大人になってむし歯になるのは、その多くは、昔、詰め物をしたところの“再発”ですからね。でも、大人になってからでも、予防に向けた習慣をぜひ身につけてほしいですね。