オンライン授業の教育効果、変わる「職員室」

 プロテスタント系男子校である聖学院(東京・北区)では、高校生はすでに全員が端末を授業で使っていたが、完全リモート授業の実施に際して、デバイス接続チェックを入念に重ねた。そんなこともあり、2学期からは各自の端末を利用してのBYOD(Bring your own device)になる。 

 聖学院には勢いがある。4月13日から取り組みを開始したが、この週だけで授業動画を100本用意、非公開設定のYouTubeで配信した。この4カ月弱で自作動画は1200本まで増えたという。恐ろしい勢いである。全教員が自分で全工程を担わないよう、技術チームが配信に対応、分業したことで無理なく進められた。ゴールデンウィーク明けからはスタディサプリも併用することで、動画教材はさらに充実している。

 こうした動きが加速した要因として、聖学院内のベテラン・若手の教員と他校から転職してきた教員の相乗効果が発揮できたことが大きかった。例えば「ICE(アイス)モデル」という評価・学習法を導入して、これからの学びに「問いのストーリー化」を据え、自ら学びたくなる学習機会をつくる方向にかじを切り、若手教員が自信を持って授業を展開している。ちなみにICEとは、I=Ideas(基礎知識)、C=Connections(つながり)、E=Extensions(応用)のことである。

 面倒見のいい学校という評判の聖学院ではあるが、それは保護者からの「子どもをさぼらせないできっちりと生活・勉強させてほしい」という学校の福祉的価値に対する要望である。

 しかし、学校の教育的価値を考えると、生徒が主体的に戦略的に学習を組み立てる経験を重ねることに効果があることが分かった。オンラインは時間や場所・世代を超えた機会と出会いをもたらすツールであり、可能性は格段に広がるからだ。こうした気付きもコロナのもたらした副産物なのかもしれない。

 最後に、「職員室」はどのように変わったのか、について触れておきたい。これは多くの企業で起きたことと共通する点も多いが、世代間格差とデジタルリテラシー格差は教員の間でも大きい。そうした場合、皆で一斉にというよりも、分かる人から取り組み進めていくことになる。

 最初は、教員にとっての具体的なメリットが響く。資料を何百枚も印刷しなくてもPDFを配信すれば済む。授業の動画撮影で、同じことをクラスごとに板書して、時折寝ている生徒を起こす労務からも開放される。これだけでも、教員の生産性は格段に向上する契機が潜んでいる。その力と時間をどこに向けるかだ。

 50~60代の中高年層はこうした動きに疎いが、巻き込まれていや応なしに進めていく過程で覚醒した教員も出てきたという。

 湘南白百合では、普段から若手とベテランがコンビを組んで教育スキルを伝承してきたのだが、今回はその関係性が逆転、若手が身につけたICTスキルをベテランに伝えるという流れができた。情報委員会としてGoogleなどに詳しい教員など7~8人が旗振りとなり、中堅教員も各教科に人材がいた。職員は昼礼のお祈りを毎日交代で行い、自分の考えをスピーチすることで思いも共有できた。結果として、職員室の活性化も進んだわけで、コロナ禍も悪いことばかりではない。

 なお、特集「ポストコロナ時代の教育」については、7月14日発売のダイヤモンド・セレクト2020年8月号「本当に子どもの力を伸ばす学校」に掲載されているので、併せてご覧いただきたい。