「経営者はリソースフルであるべきだ」

 Amazon(アマゾン)の創業者であるジェフ・ベゾスは、このように述べている。

 私も全く同感で、経営者は経営に関するあらゆる側面に対して、熟達(マスタリー)が求められるということだ。かりに現時点で、熟達できていなくても、経営者自身は常に自己研鑽し「経営者として常にレベルアップしていく」という姿勢が重要になる。

 本連載では経営を各要素に分けて解説していく。ただ、留意点として、ここで紹介するフレームワークや知識体系は、それぞれ独立したものでなく有機的に結合する、ということだ。一見するとバラバラに見える経営の要素は、次の図のように結合できる。

プロダクト・マーケット・フィット(PMF)<br />を目指す起業家に求められる<br />たった1つの資質とは?

 図の右側は、バランス・スコアカードを参考に私がオリジナルで作成したスタートアップ・バランス・スコアカード(Startup BSC)というフレームワークである。

プロダクト・マーケット・フィット(PMF)<br />を目指す起業家に求められる<br />たった1つの資質とは?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)がある。

 バランス・スコアカードというフレームワークを聞いたことはあるだろうか? ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプランと著名なコンサルタントであるデビッド・ノートンが1992年に発表した経営システムのフレームワークである。

 バランス・スコアカードは、戦略経営のためのマネジメントシステムで財務数値に表される業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績評価を行うための手法である。

 従来のバランス・スコアカード(上図の左側)は、財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点で成り立っており、事業をまさに“バランス良く”マネジメントするために用いられるフレームワークである。

 『起業大全』を執筆するにあたって、従来のバランス・スコアカードに私なりの新たな視点を加えて拡張したのがスタートアップ・バランス・スコアカードだ。

 新しい産業を創造していくスタートアップにとって特に重要になる要素は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、戦略(Strategy)、人的資源(Human Re-sources)、オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence)、顧客体験(User Experience:UX)、マーケティング(Marketing)、セールス(Sales)、カスタマーサクセス(Customer Success)、ファイナンス(Finance)の9つがあげられる。

 スタートアップ・バランス・スコアカードはアカデミックなフレームワークでなく、実践で活用するものと認識いただきたい。その特徴としては、

 ●これらの要素は、全て自分たちで手直しできるものであること
 ●また論点を要素分解することにより、CSFとKPIの設定ができること
 ●一枚で、全体を見渡せること
 ●因果関係になっているので、どういうレバレッジをかければよいか、そのベンチマーキングになること

 現在の自社の状態を、スタートアップ・バランス・スコアカードに当てはめて、プロットしてみて、「課題のあぶり出し」やあるべき「状態ゴール」を可視化・言語化するのに使っていただきたい。

 スタートアップの使命は、絶え間なく変化する外部環境の中で、売上と利益を上げて継続的に企業価値を高めていくことである。だが、それはあくまで結果指標であり、その先行指標やキードライバーになる要素を理解し、ディレクションすることが「スタートアップCXO」に求められるのだ。