プロダクトは投資判断基準の一要素
朝倉:投資家サイドのモノの見方を理解する意味で、我々シニフィアンがグロースキャピタル「THE FUND」で投資判断を行う際の全体像を例に上げてみましょう。
我々が重視するポイントは主に5つです。1つ目のポイントは、「経営チーム」。これは非常に重視すべきポイントだと認識しています。2つ目は、「事業の本質的な価値」。
3つ目は、「上場の蓋然性」。我々が運営しているグロースファンド『THE FUND』では、投資先企業の上場後の成長を支えるということをコンセプトにしているため、上場そのものは実現できるという水準のステージに投資をしたいという発想です。
4つ目は「財務体質」。継続して会社を経営していく財務的な体力や構造が築かれているのかという視点です。5つ目は、「投資条件」。投資である以上は当然の項目ですね。
我々は主に、こうした5つの観点から総合的に判断して投資検討しますが、この点、プロダクトの完成度や魅力という点は、上記の5点の中では、あくまで2つ目のポイント「事業の本質的な価値」に内包される一要素であるということですね。
小林:そうですね。4つ目の「財務体質」の点でも、特に不況下では、「非常に良いプロダクトだけど、この財務体質だとサバイブできない」という状況が起こりえます。そうなると、どれだけプロダクトが良くても投資は見送られるでしょう。
まさに今のようなマーケット環境では、財務体質的に「サバイブできるかどうか」という観点は、投資可否検討基準として、より強まってきている部分でしょうね。
また、5つ目の「投資条件」に関して言うと、例えば、デットの割合が非常に高い会社のケースでは、状況が変化した際に、デットホルダーの権限が非常に強くなり、経営の方向性を握られてしまうリスクがあります。そういったケースでも、プロダクトの良さと関係なく、投資を難しくする一つの要因になり得ますね。
村上:1つ目に挙げられた「経営チーム」という観点でいうと、初期、質の高いプロダクトを生み出すフェーズで投資家から高く評価された経営チームであっても、その後の拡大フェーズ、拡大後の持続的経営フェーズで、継続的に高い経営力を発揮できるかどうかを、投資家サイドは見極める必要があります。
会社のフェーズによっては、良いプロダクトを生み出せるチームが良い経営陣とは限らないということです。投資家が「プロダクトを評価しても会社に投資しない」というギャップが生じるのは、こういった組織面をも含めて評価しているからでしょう。
朝倉:そうですね。スタートアップを大きく、シード・アーリー、ミドル、そしてレイターから上場以降にかけてのポストIPO期という3つの区分に分けたときに、それぞれ投資対象として重視される側面は異なります。
シード・アーリー期では、そもそもプロダクトが存在しなかったり、事業が確立していなかったりするわけですから、経営チームが最大の訴求ポイント。ミドル期では、プロダクトもそれなりに形になっていることを踏まえると、プロダクトの確立度合いや事業の本質的な価値がより着目されることになります。
一方でレイター以降に移ると、先ほど挙げた5つのポイントのように、より総合的に会社の強さが評価されることになります。いわば、評価の力点がプロダクト・事業から、会社全体に移るということですね。
どんな時期であれ、プロダクトは本質的に重要な構成要素の一つであることは間違いありません。ただ、フェーズが進展するにつれ、投資家が重視するポイントはより総合的に広がっていくということですね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/5/31に掲載した内容です。