遊園地のプライシングと外部性
しかし、実は遊園地でのプライシングには、これらの価格設定問題にはない特徴がある。それは、「外部性」の問題だ。
読者の皆さんは、「外部性」という言葉を、一度は聞いたことがあるだろう。それは高校の政治経済の授業かもしれないし、大学の「経済学基礎」や「経済学入門」の授業かもしれない(高校では、「外部経済」「外部不経済」などという言葉で教えられているようである)。たとえば、川上で工場が排水を垂れ流すと、川下の水質が悪くなり、漁師が困る、というのが「外部性」と呼ばれるものだ。
こういう時に、「工場の生産活動が外部性を生んでいる」という。つまり、誰かが何かをしたことによって、その他の人に影響が与えられる、というのが外部性だ。
さて、遊園地のどこに外部性があるのだろう。遊園地の工事をすると近隣住民が騒音で困るとか、大量に客が押し寄せてくるので電車が混み通勤客が困るとか、そういったこともあろうが、ここで言いたいのはそういうことではない。
実は、お客さんがどのチケットを買うかを考える時に「外部性」が潜んでいるのである。
たとえば、フラッシュパスを買う客が非常に少なかったとしよう。するとフラッシュパスを買った客は、列のかなり前の方に行ける。ちなみにこれは、私が「Six Flags」に行くとよく見かける光景だ。
翻って、客が全員フラッシュパスを買う場合を考えよう。すると、せっかく高い料金を出してフラッシュパスを買っても、結局列の先頭周辺に行ける可能性は低く、他の客と同様、普通に並ぶことになってしまう。
たとえば、空港でセキュリティーを通る時に列の前に行ける「TSAプレチェック」というチケットがある。しかしある空港では、あまりに多くの人がこれを買ったために結局、皆長時間並ぶようになった、ということが実際に起きたそうだ。
つまり、他の客がどのチケットを買うかが、フラッシュパスの価値を決めている。お客さんとしてはフラッシュパス購入時にこうしたことを考えに入れて高額の料金を支払うかを決めることになるし、遊園地側も、お客さんたちがこういったことを考えるであろうということを念頭において、価格設定をしなければならない。
遊園地のプライシングとゲーム理論
こうした問題は、先述の携帯電話やオンラインソフトウェアの価格設定問題には存在しなかったことを思い出されたい。
たとえば通話料に制限のないプランを買う人が増えたからといって、お客さんにとってそのプランの価値が下がるということはあまりないだろう。遊園地のプライシングは、「外部性」を加味する必要があるため、特殊なのである。
こんな特殊な状況で、ではいったいどんな価格設定をすればいいだろうか? これを考えるのに、「ゲーム理論」が役立つ。「ゲーム理論」は、人々が他人の行動を読み合うとき、どのような意思決定がなされるかを分析する理論だ。
各々のお客さんは、他のお客さんがどんなチケットを買うかを考えないといけない。この「お客さんが他のお客さんの購買行動を読む」状況を分析して、どのような価格のもとで約何人のお客さんがどのチケットを買うかを予測することが、遊園地にとってできるだけ高い利潤を生むために肝要だ。
フラッシュパスを買うお客さんが少ないと予測するならその価格は高価にできるし、多いと予測するなら安価にしなくてはいけない。逆に、フラッシュパスを高額に設定すると購入者は少なくなるだろうし、低額に設定すると購入者は増えるだろう。
遊園地の経営陣としては、うまくプライシングをするためには、こういった妙を十分理解している必要がある。だから、遊園地の経営陣には、ゲーム理論の鍛錬が必須だ。
上海ディズニーランドやUSJではすでにファストパスと同種のチケットが有料化されているようである。東京ディズニーランドもファストパスを有料化する方針の模様だと小耳に挟んだが、果たしてうまくいくだろうか。ゲーム理論の知見を活かしたプライシングがなされることを、期待したい。