世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が7月30日に発売された。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式などを使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものであるはずである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する(全7回予定)。大好評連載のバックナンバーはこちらから。

経済学者が「遊園地のチケット価格」について考えてみた。Photo: Adobe Stock

価格設定の基本的な考え方

 猛威を奮う新型コロナウィルスの影響で、日本の大型テーマパークも休園に追い込まれた。たとえば、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーや、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)だ。最近では再開園したようだが、入園者数に制限を設けている。

 通常これらの遊園地ではアトラクションに並ぶ時間が長いため、「ディズニーデートしたカップルは別れる」などと言われたものだ。しかし今ならば混んでいない。カップルも思う存分パークを楽しめるかもしれない。

 さて、ディズニーランドには「ファストパス」というものがある。直訳すると「速い券」だが、その名の通り、このチケットを持っていると、ファストパスを持っていない人たちを差し置いて、アトラクションに先に乗れるのだ。ディズニーランドではファストパスは現在無料であるが、同種のチケットは世界中の他の遊園地にも存在し、それらの中には有料化されているものもある。

 たとえば私の住むアメリカには、「Six Flags」という遊園地のチェーンがあり、ここでは「フラッシュパス」という名前のチケットが有料で販売されている。お金を払ってフラッシュパスを買えば、列の先頭に行ける、という仕組みだ。

 遊園地側がこのような特殊なチケットを販売したい理由は、明らかである。それはもちろん、「より多くの利益を生むため」だ。列に並ばないことに価値を感じているお客さんは、少し高くても「長時間並ばなくてすむ権利」を欲しいだろう。だからこういったお客さんには、高い価格を支払ってもらう。

「より価値を感じている顧客からより多くの対価を受け取る」。モノに値段をつける理論である「プライシング(価格設定)理論」の基本である。

 携帯電話の様々なプランにそれぞれ値段をつけたり、ZoomやDropboxなどのオンラインソフトウェアの様々なバージョンに値段をつけたり。これらの全てに当てはまる、鉄則だ。