How To:仕事のデジタル化のために、トレーニングの時点から「言語化」を徹底する
アイデミーで新チームを発足させて1ヵ月が過ぎたある日、振り返ってみるとメンバー17人中の5人に、リアルでは一度も会ったことがないと気づきました。
また先日、3ヵ月、ともにプロジェクトを進めてきた人に「そういえば初めて直接お会いしましたね」と声をかけられ、驚きました。
現在は過渡期といえども、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークやビデオ会議をうまく使うようになるほどに、そのようなケースは増えていくと考えています。
この環境において、「そこに座って、仕事を見ていて。必要になったら声をかけるから」といった、「仕事は見て覚えろ」のOJTは、もはやありえないといっていいでしょう。そもそも、オフィスで横並びの机で仕事をする、という機会さえ、次にいつ訪れるかも不透明なままですから。
たしかに、以前までは「テキトー」でよかった面もあります。作業や依頼を具体的にしなくても、新人の側から「空気」を読んで働きかけるようなこともあったかもしれません。しかし、読むべき空気はデジタルコミュニケーション上には存在しないのです。
新人の側からしても、テキトーな先輩が教育係についたとしても、「そういうこともあるさ」と諦めつつ、周囲のやり方や同僚の振る舞いなどから、学ぶこともできたかもしれません。ただ、今後の「自律分散」で仕事をする環境下では、そのような空気や空間も共有できません。面倒見の悪い先輩にあたっても、自ら質問し、また相手を促していくような心がけが必要にもなってきます。
つまり、自律分散の働き方が進むと、「相手に育ててもらう」という要素が減り、自分をジョブにあわせて成長させる流れが強くなります。またそれは人材育成の重要なポイントになります。必然、成長意欲を持たない人にはチャンスも訪れません。
これまでの日本企業では「新入社員研修」が手厚く、実戦投入までの時間も十分に確保されてきた傾向があると思います。ところがビジネスの波が変わり、また世情の大変化も起きた今になっては、むしろ実戦投入を早めていくことが求められています。
この流れは、グローバル企業であれば「当たり前」ともいえる取り組みです。IBMで人事を担当していた際に、私はよく本国担当者から「なぜ日本だけ、それほどの期間をかけて新入社員研修をするのか。インターンで先に経験を積んでおくとか、あるいは学生時代に自ら勉強して身につけておくべき知識ではないか」と責められたものです。彼らの基本の考えは、会社は学校ではないのだから、スキルは与えてもらうのではなく自ら学ぶものだ、というスタンスです。
当時はこのスタンスに「日本流の事情もある」と反発心を覚えたりもしたものですが、どうやらそれだけでは通じなくなってしまったようにも思います。
そのため、スキルを自ら学ぶための学習機会の提供もポイントになってきます。私が在籍していた頃から、IBMにはオンライン上で社員の自主学習を促す仕組みがありました。学習ツールはすべてオンライン化しており、現在のようにビデオ会議とまではいかずとも、拠点間で「電話会議」ができる仕組みもあったのです。オンラインにすべてを用意することで、学習機会を持ちやすくしていたのですね。
いま、これらの仕組みを導入すること、あるいは利用することに対して、ハードルもコストも相当に下がりました。あなたの会社がなにもまだ整備せずにきているのであれば、「時代が変わった」ことを自覚し、今から準備をしていくほうが無難でしょう。
また、今までのOJTと同様とまでは言いませんが、「ビデオ会議に同席させる」というのも、1つの育成機会として有効に働いているようです。
先日、アイデミーで若い社員と1on1ミーティングをしていると、「ベテランのプレゼンを聞くことができる環境はありがたい。自分のプレゼンにも反映できるようになった」というフィードバックがありました。
学習機会の拡充は、組織のサステナビリティの問題ともいえます。新人が力をつけてくれば、組織としても大きな仕事に取り組みやすくなり、また持続性も高まります。
一方的なOJTで済ませるのではなく、これからは、リモート勤務のような新しい環境下でも、「育て合い、学び合う」をキーワードに据え、取り入れられる組織が強くなっていくでしょう。
著者からのメッセージ:コロナショックがもたらした本当の「働き方改革」を止めないために
「ハンコを押すためだけに出社とか、絶対におかしいよ……」と思った、あなたへ。
今日から私たちの手で、日本の働き方を変えていきましょう。
あれは2016年の頃からでした。ついに、「働き方改革」という名の大号令が下り、ビジネスパーソンが人生の多くの時間を費やす「仕事」や「職場」の見直しが図られていくことになりました。号令は各企業の取り組みや関連法案の改正などを引き出し、多くの日本企業を変えていく……はずでした。
たしかに、ゆっくりとではありますが、「働き方改革」で変わったこともあります。しかし、私には「改革」の2文字が、どこか虚しく響いているだけのようにも思えていました。
もっとできる。まだまだ改善できることはある。
そんな思いを胸にしながら仕事を続けるなかで、はっきりと、大きく情勢が変わったのは2020年初頭。世界中を巻き込む新型コロナウィルス感染症の大流行です。緊急事態宣言のもと、あらゆる企業が社員の出社を見合わせ、自宅待機とテレワークで仕事を進めざるを得ませんでした。この自粛期間が、これまでゆっくりとしか変わってこなかった日本企業の働き方を大転換させるきっかけとなったのです。「来たるべき未来が早回しで実現した」と表現した人もいたくらいに。
具体的には何が起きているのか。私が「日本経済新聞」で目にしたニュースを、いくつかあげてみましょう。
◇日立製作所は3万3000人の社員の約7割を在宅勤務前提に
◇NTTグループ280社の間接部門は、在宅勤務5割を標準に
◇サントリーHDは電子決裁などペーパーレス化を推進
◇ドワンゴは全社員1000人がコロナ後も原則在宅勤務に
◇リコーやベネッセコーポレーションでは、在宅勤務でも残業代を支払いへ
◇カルビーは成果主義の報酬体系を活用して、在宅での多様な働き方を実現。業務に支障がなければ単身赴任も解除
◇KDDIは約1万3000人の正社員に、職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型雇用」を導入。一律初任給も廃止
このように、日本を代表する大企業が続々と改革案を発表していきました。ついに「本当の働き方改革」が実現されたのだと、私は感じました。
しかし、こうした企業の現場に思いを馳せれば、誰も予想できなかった事態に急に対応したわけですから、社員からは嘆きの声が聞こえてきそうなものです。ところが、実際のところはどうでしょうか。いまだ新型コロナウィルスの脅威が去っていないこともありますが、多くの人が、この働き方の変化を「悪くないもの」として受け止めているようなのです。さらにいえば、若い社員からは歓迎の声すら聞こえてきます。
私自身も、テレワークで出勤から解放され、Zoomなどのツールで効率的にビデオ会議をこなす働き方の快適さに、あっという間に親しんでしまいました。むしろ、電車でわざわざ都心のオフィスまで移動し、各地にあるクライアントを訪問していた以前の生活を思い出せないくらいです。公言はしないまでも、同じ感覚を持っている方は多いのではないでしょうか。
なぜ、私たちは急激な変化をスムーズに受け入れることができたのでしょうか?
危機が起きた際の日本人の特性と考えることもできるかもしれませんが、私としては、より本質的な理由があると確信しています。それは、すでに何年も前から、日本企業の働き方には無理がきていた、というものです。
ここ数年、私は書籍の執筆のために、日本企業の「当たり前」に関心をもっていました(著作を含む私の経歴は「おわりに」にまとめましたので、ご参照ください)。すると、多くの企業で、昔からの「当たり前」が実態とズレてきているにもかかわらず、価値観の修正がなされずに現場が苦しんでいるケースがあると気づきました。また、ITに親しんだ私にとっては明らかに合理的で「当たり前」だと思うことが、クライアントには非常識だと思われてしまい、驚くこともありました。
そうした組織の矛盾や制度の経年劣化が、コロナショックにより可視化され、変化を迫られました。まさに、「働き方」の前提となる価値観を含めた「当たり前」が変わったわけです。
では、なぜ、どのように、日本企業の働き方には無理がきていたのか。私なりに考えれば、それは、インターネットの浸透と産業の変化に、日本社会が対応できていなかったということに尽きます。これだけITが進歩し、また職業や職種が多様化したにもかかわらず、日本社会は依然として20世紀と同じ製造業を主流とする働き方を前提にやってきていたのです。
より具体的に整理をすれば、コロナショックで明らかになった「働き方」の変化は、次の3つに集約されるように思います。
1.依存集中から自律分散へ
中央集権的なシステムや大企業がもたなくなり、個人やスタートアップの存在感が増す。
2.時間労働から価値労働へ
個人の労働が、費やした「時間」ではなく、生み出した「価値」で評価されるようになる。
3.アナログからデジタルの価値観へ
1.2.の前提である「デジタル化」が、人々の価値観にも影響を与えている。
いま皆さんの周囲で起きている「働き方」の変化も、こうした流れの中でのもの、と捉えることができれば、受け止めやすいのではないでしょうか。
コロナショックでは、以前から個人の内部や現場で蓄積されてきた3つの変化へのエネルギーが、一気に噴出することになったわけです。
しかし、変化が本質的なものであるがゆえに、職場では衝突や軋轢も生まれているようです。コロナショックが落ち着いたら、先ほどあげたような大企業でも、その取引先である多数の会社でも、昔の働き方に戻そうとする力が働くでしょう。しかし、それは明らかに社会の生産性を下げる、老害的なノスタルジーに過ぎません。私たちは個人の幸福のためにも、日本経済の復活のためにも、そうした「反動」を明確に否定しなければならないのです。
『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』は、その戦いで、私と志を同じくする人を応援するために書いたものです。先ほどの3つの変化を元に、過去の「働き方」をBefore/Afterのストーリー形式で振り返り、実際にどうすれば古い働き方を変えられるかというHow Toのアドバイスをしていきます。
これを機に新しい「働き方」を職場に定着させようと奮闘している人、変化についていくことに大変さを感じている人、そして組織を変えようとするリーダーや経営層の人に、必ず参考にしていただけるものとなったはずです。ぜひ、明日からの仕事に役立てていただければ幸いです。