安倍氏と習近平氏辞任表明に、中国からは「辞めないで」の声が多く上がった Photo:Pool/gettyimages

安倍晋三首相の辞任について、中国人民の間では退任を惜しむ声が多く上がった。中国では安倍政権の日本を右傾化していると捉え、対日感情が悪化する局面もあったが、なぜ中国人民は安倍首相辞任を残念がるのか。安倍政権7年8カ月の対中外交を振り返るとともに、その理由を探ってみたい。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中国人民は “義理”を感じたのか

 7年8カ月という長期にわたり政権を担った安倍晋三首相の突然の辞任表明は、中国でも速報された。そこで上がった国民の反応は「安倍さん、辞めてほしくない」「レベルの高い優れたリーダーだった」などの辞任を惜しむ声だった。

 普段から辛口な中国の一般市民らが日本の首相をこんなに褒めるなど、そうあることではない。当然、この“褒めちぎり”には隠れたメッセージがある。その一つが「日本よ、中国を孤立させないで」というメッセージだ。

 コロナ禍をきっかけに米中の対立は一段と厳しさを増し、欧米諸国が中国包囲網を強めるなど、昨今の中国への風当たりは強い。米国では、トランプ大統領の一連の中国たたきに、一般市民が喝采を送っている。だが、日本では表立った反中活動はない。中国への逆風を緩和させたのが、安倍首相による“絶妙なバランス感覚”だった。

「世界は『チャイナウイルス』を連呼したが、新型コロナウイルスの発生源となった中国を、日本はあしざまに批判することはありませんでした」と日本の元外交官が語る。

 米、英、仏などで中国に賠償請求する動きがあったが、日本は動じなかった。中国国民はそこに安倍首相への“義理”を感じ取っていたのかもしれない。8月まで、中国公船が沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域を111日間連続でウロウロしたが、これについても、「日本の国民の反対や米国の顔色をうかがいつつも、安倍政権は自重し続けました」(同)。

 日本と衝突したくないが、国内のガス抜きが必要だ――とする中国側の「ホンネ」と「建前」を、安倍首相はうまく見抜いていた可能性がある。