7月半ば、2階のベランダに洗濯物を干しに出た妻が「ハチが1匹飛んでいる。前回もそうだった」と話した。「随分うちに懐いた個体がいるんだな」と笑い飛ばしていたが、やがて1階の庭でもその個体とおぼしきハチが徘徊しているのが確認され、早急なる対策が必要とされた。庭に出て遊ぶ娘や、1階のウッドデッキを占有する飼い猫に被害が及ぶおそれが出てきたからである。
 
 そこでホームセンターにハチを駆除するためのアイテムを入手しに赴いた。田舎のホームセンターは害虫駆除グッズが豊富であり、ハチ関連のものも充実していた。
 
 都会暮らしをしている人は見たことがないかもしれないが、ハチ駆除グッズは、他の害虫駆除用のそれと、若干ではあるが確実に趣が違う。少なくとも初めてハチ駆除グッズを購入するにあたって説明書きを読み比べた筆者は衝撃を受けた。ゴキブリ、アリ、ムカデなどの駆除グッズのパッケージはいかに連中を「効果的に駆除できるか」といったことに主眼が置かれて表記されているのに対して、ハチ駆除グッズではいかに連中を「完膚なきまでにたたきのめすか」「やられる前にやるか」が念入りに説明されているのである。
 
 たとえばハチが好む匂いの毒入りエサを設置するタイプの駆除剤ではパッケージに、毒を食らって紫色になったハチの無数の死骸が描かれ、最終的に大書された「巣が壊滅する」の文言とともに、ハチの巣に稲妻が複数本走っているイラストがあしらわれていて、「ハチが苦しみの末に死に、巣が全滅する」という様子が強く伝わってくる。
 
 また、殺虫スプレーの形もハチ用のものには特徴がある。まず、ベーシックな殺虫剤は噴射ボタンがてっぺんにつき、これを押すと薬剤が噴射される。ヘアスプレーなどと同様である。それが、ややレベルが上がると噴射するためのボタンがレバー、あるいはトリガータイプになってきて、人差し指で「押す」のではなく「引く」ことで薬剤が噴射される仕組みとなる。ハチ用スプレーはどうなのかというと、このトリガー部分が、ほかの殺虫スプレーより大きく作られているものが多い。中には、スプレー缶を地面と水平にして使う簡易バズーカ砲タイプのものまである。
 
 こうしたハチ用スプレーを何度か使ってみるうちに気づいたのだが、普通の殺虫スプレーと違い、まず兵器を構えたことによる戦闘意欲の向上とアドレナリンの分泌、そして相手を武力によって制圧する野蛮かつ根源的な快感のようなものがあった。
 
 ハチは害虫の中でも、人間に高い確率で肉体的なダメージを与えてくる点が特殊であり、駆除は常にリスクと隣り合わせである。だから“駆除”といっても他の害虫駆除と違って一方的な蹂躙(じゅうりん)が前提ではなく、同じリングに上がってのガチンコの戦いが想定されている。ハチの駆除は“戦い”であり、そうした人類の意思がハチ駆除グッズのデザインに反映されているのではないかと思われる。