「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。
ビジョンとは
自らの意思を投影した未来像
ビジョンとは、自らの意思を投影した未来像のことだ。
自分たちが心の底から達成したい願いについて考えることを意味する。長期的な視点で「社会で実現したいこと、社会に貢献できること」などの自分たちの存在意義を掲げるのがミッションである。
ミッションの強力な実現に向け、なるべく具体的に実現したい未来像になるように落とし込み、磨き上げていくのがビジョンだ。
ビジョンを明確にすると、メンバー全員がどこに向かうかという社内の共有目標がはっきりと定まる。結果として、迷いが減り意思決定のスピードが速くなり、ビジョンからの距離を逆算する視点を持つと、意思決定の質も高くなる。
ビジョンを描くときに、ビジョンが達成した未来の「世界の情景」を具体的に表現するのも、非常に有効な手段だ。言語化だけでなく、ビジュアル化することで、メンバー同士のイメージの齟齬が減るからだ。
Our Vision is to be Earth’s most Customer centric company.
我々のビジョンは世界で最も顧客中心の会社になることだ。
─ジェフ・ベゾス
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが1999年にインタビューを受けた動画(Jeff Bezos In 1999 On Amazon’s Plans Before The Dotcom Crash)で、彼は何度もカスタマー・セントリック(顧客中心)という言葉を用いていた。
1994年の創業から5年、まだ規模は小さかったうちから、「顧客中心」というビジョンは明確だったのだ。その後の20年で、アマゾンは時価総額100兆円を超える企業にまで成長するが、まさにその原動力になったのが、このビジョンだろう。