打ち合わせで「盛って」はいけない

まず、打ち合わせでは、自分が書いてきたコピーや企画をそのまま手短に見てもらう。

その後に、そのコピーや企画に込めた意味や最低限感じ取ってもらいたかった意図を、できるだけ長く話す。

すると答え合わせのように、「そこまでは感じなかったよ」「そういう意味なんなら、ここをこうした方がいい」等々、具体的なアドバイスが貰えたりする。大事なことは、まず企画を見てもらって、その後に、意図を話すことです。

実際の打ち合わせでは、その逆に考え方や企画意図を話してからコピーや企画を見てもらうことが多くないでしょうか。

そうすると、当然理解されやすく、分かりにくい点が見つけにくくなってしまうのです。

企画意図を先に話してしまうと、コピーの言葉に企画意図が反映されているように感じてしまう。でも冷静にコピーだけ見ると、長々話した企画意図などちっとも感じられないことが多い。

つまり弱点が誤魔化されてしまっている。

クライアントさんにプレゼンする時は企画意図から話してなるべく分かりやすさを演出することも大事ですが、社内打ち合わせでは弱点を見つける方に意味がある。

なるべく分かりにくい状態で見てもらった方がいい。

そういう意味で最近打ち合わせで気になるのが、パワーポイントやキーノートの多用です。

コピーや文章は文字だけなのでさほど害はないのですが、その他の企画では映画やドラマのワンシーンなどイメージ画像が添付されがちですよね。

パッとイメージが伝わり、分かりやすくなるのですが、やはり弱点が隠されてしまうことが多いのです。

ヒット映画のワンシーンには情報量が多い。

そのシーンだけでなく前後のストーリーを思い出し、そのシーンを見た時に感じた気持ちまで蘇るので、その企画の気分が分かった気がする、良く見えてくる。

しかし、それは再現不能なのです。

同じ予算で同じ一時間半の映画を撮るならまだしも、違う条件で同じことが再現できるわけがない。

「こんな感じで」「こんな気分で」とイメージ映像を出すと、「分かる分かる、いいね」と簡単に共有できるのですが、その「こんな気分」を新しく別の表現で作り上げることは簡単ではありません。

打ち合わせでは、盛らない方がいい。

盛るつもりはなかったとしても、パワポを使うことでついつい画像を添付したくなり、画像があるから具体的に考えられた気になってしまう。

実際に作り始めるまで弱点に気づかず進んでしまい、なんかイメージと違うなあ、と後悔することになるわけです。

「これ分かりにくいんじゃないか?」と上司に言われても、「いえ。コンテだから分かりにくいだけで、ちゃんと撮影すれば分かるようになるんです!」

そんな生意気なことを言っていた自分が恥ずかしい。上司がこの本を読んだらどう思うんだろうなあ。

絶対後悔しない、打ち合わせの上手な使い方
井村光明(いむら・みつあき)
1968年、広島県生まれ。東京大学農学部卒。博報堂クリエイティブディレクター/CMプラナー。
主な作品に、日本コカ・コーラ「ファンタ」=ACC賞グランプリ2005受賞、U H A味覚糖「さけるグミ」=ACC賞グランプリ・カンヌライオンズフィルム部門シルバー・TCC賞グランプリ2018受賞、森永製菓「ハイチュウ」、永谷園「Jリーグカレー」、コンデナストジャパン「GQ Japan」、エムティーアイ「ルナルナ」、福島県「TOKIOは言うぞ」など。コミカルで独自の世界観を持つ作風で知られる。宣伝会議コピーライター養成講座の講師も務める。著書に『面白いって何なんすか!?問題』(ダイヤモンド社)。

参考記事
「面白い」の対義語は、「よく分からない」