発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。
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発達障害の僕が発見した「やらなきゃ…と自分を責めながら先延ばしを続ける人生」をやめる一つの方法

食洗機で「悪い思考ルーチン」を断ち切る

 食洗機、持っていますか? 今すぐ買ってください、以上。これが僕が何をおいても最初に伝えたいメッセージです。

 「ラクをする」のは意外と難しいことです。普段我々は、自分が「めんどくさいことをしている」という感覚をあまり持つことができません。「自分が怠惰だからこんなことになるのだ」と自罰感情は湧いても、「どうすればラクになるかな?」という工夫の方向性へ思考が向かわないのです。この悪い思考ルーチンを解除するには、一度「設備投資をしてみたら劇的にラクになった」という体験をしてみるしかありません。いくら字面で理解できても、実感が伴っていなければ無意味なのです。

 僕の経験上、即座にこの劇的な体験をさせてくれる道具が、食洗機です。

「食器なんか手で洗えばいいじゃん」
「家事への投資をそんなに重視してない」

 こういうことをいう人はよくいます。もしかしたら、この文章を読んでいるあなたもそうかもしれません。だって、皿なんて手で洗ったって20分もあれば終わるじゃないか。食洗機に任せたら1時間はかかるだろうし、そもそも食洗機自体も安くない、なら手洗いでいいじゃないか。その気持ちはもちろん僕にもわかります。でも、ちょっと僕の話を聞いてください。

なぜ僕らは皿洗いを「先延ばし」するのか?

 僕は長いこと、使った食器を台所にため込んではある日「もうダメだ!」と叫んで必死に洗う、そんな生活を続けてきました。視界の端に食器のたまったシンクがあるのはもちろん大きなストレスなんですが、どうしても洗い始めることができない。毎回コンスタントに洗っていればラクなのはわかりきっているのについため込んでしまう。そして、ある日「やるぞ!」がやってきてたまった皿は一掃される――。「先延ばし癖」の強いADHD特性の方はだいたいこの状況に悩んでいると思います。

 この、極めてADHD的な「皿が洗えない」現象、実は日本の台所事情と大きな関連を持っていると僕は考えています。というのも、シンクに皿をため込んだ場合、狭い台所だと「洗うスペースがない」状態が起きてくるのです。そのためにまずドロドロのシンク(皿をどかすごとに吹きあがってくる腐敗臭!)に手を突っ込んで、洗浄スペースをつくる必要があります。僕が狭小ワンルームに住んでいたころは、お恥ずかしながらガスレンジの上に汚い皿を積んで皿洗いをしていました。

 実は、この「本来の作業を行うための準備作業」が曲者なのです。「勉強を始めたいのに机の上に物が大量にのっかっている」という状態を想像してもらえばわかりやすいでしょう。「勉強を始める」だけでも大変な意思の力を要するのに、「それを始める前にまず片づけ」となったら、それはもう永久に勉強ができなくなってしまってもしょうがない。

 この難関の連続を「皿を突っ込む」の一手に圧縮してくれる最高の道具が、食洗機です。最悪でも「食洗機の中からきれいな皿を取り出して」「汚れた皿を突っ込む」たった二手です。このラクさは劇的なものです。

努力家ほど間違いを起こす

 先日、友人が「汚部屋をなんとかしたい」というので軽トラを連れて大掃除の手伝いに出向いてきましたが、1Kの部屋の中から山のような収納グッズが発見されました。自炊を始めようとした形跡もあり、塩のビンが5個、胡椒のビンが3個、計量カップが4個ほど落ちていました。その一方で、彼の部屋には洗濯機も食洗機もありませんでした。

 彼はむしろ努力家だったのだと思います。収納グッズを買って片づけようと努力した。塩を買って、自炊をしようと努力した。しかし、彼が購入したアイテムは、「仕事を任せる」というよりは、「何かをする手助けをする」ものばかりでした。そして、それを買っても実際に手を動かせなかった。収納グッズを購入してもそこに物を入れることはできなかった。塩と胡椒を買っても野菜炒めをつくる台所を準備できなかったのです。

 食洗機は、僕らに努力を求めません。とにかくどんなときでも皿を突っ込んでボタンを押せば、あとは勝手にピカピカにしてくれます。手で洗うよりずっと仕上がりもいいですし、あの一番面倒な食器拭きの手間もありません。

 まずはこの「ラクになった!」という喜びを手に入れましょう。人生をよくするのは「頑張るぞ」という苦みではなく、「ラクになった!」という喜びです。

 毎日薪を探すのがめんどくさくなって薪の貯蔵小屋をつくった原始人の気持ちになってみてください。そうやってあなたはよくなっていくのです。

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