経営者の善管注意義務、投資家からのチェック体制
村上:そうですね。先日の事件を巡る報道の中で、「誰に責任があるのか」といった論調もありましたが、これはなかなか難しい論点です。やるべきことは非常にベーシックなことで、口座を管理する役員なり、管理職なりに、一人で管理させず相互にチェックする仕組みを作れればいい、それだけと言えばそれだけのことなのですが、上場審査前の段階で、財務管理体制のチェックがされているかといえば、そうでもないというのが現実なのでしょう。
投資家が財務管理のオペレーション体制まで十全にチェックしきれているのかというと、そうでもないでしょうし。経営陣においては、資金管理を適切に執り行うことは大きな責任ですから、善管注意義務違反を問われることになっても仕方ないと思います。プロダクトや事業の成長と同等以上に、資金管理は、経営者の重要な責務であるはずです。
朝倉:こういったガバナンスの問題における投資家の立場が問われる論調もありますが、ここまで大規模な横領が起きる例は稀で、日本のスタートアップ業界ではあまり発生してきませんでした。村上さんが述べたように、ベーシックな管理体制があれば、通常は起きないことですが、今回明らかになったように、いざ発生したときには非常に大きなインシデントに発展する、経営上の重いリスクです。
善管注意義務の観点からも、経営者はより、管理体制に対する意識を高めていかなければならないでしょうし、実際にこうした事案が発生した以上、会社を取り巻く投資家も、資金に対するチェックの目をより厳しくせざるを得ないでしょう。
取締役、監査役といった機能に関しても、こういった状況を防ぐためのベストプラクティスを確率する必要があるでしょうね。
*本記事はsignifiant style 2020/7/24に掲載した内容です。
(ライター:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)