しかし、これらが否定されたのである。その結果、ジョブ型雇用に変えるなら、個人のキャリアプランの形成方法、会社と個人との契約関係、マネジメント方法、心理状態、個人の学習意欲の持ち方やその内容なども大きく変わることになるだろう。
90年代よりはるかに大規模な
デジタル化が起こる
「技術」変化については、言うまでもない。とにかくデータが取れ、その活用が可能になることですべてが変わる。スマホや各種のセンサーとIoT、遺伝子情報、5G、3Dプリンター、ドローン……そしてAIである。もちろん、技術は万能ではないし、何でもAIが判断してくれるわけでもない。しかし、これらの技術の発展が起こす社会変化は想像もできないような新しい状況を生み出す。
40代以上の人には、今の状況に既視感があるかもしれない。
90年代、われわれは一冊の本に未来を見た。マサチューセッツ工科大学でメディアラボを創設したニコラス・ ネグロポンテ教授が1995年『ビーイング・デジタル』という本で、「デジタルという単位で塗り替えられた」世界の見取り図を示したのである。デジタル技術や通信技術が発達し、さまざまなコンテンツがビットを単位にしたデータに置き換えられ、統合される。今でいうIoTのような概念やデジタルデバイスの進化なども語られていた。
この本は、従来の産業の垣根を超え、あらゆる情報がデータという形に収れんしていくという、今では当たり前になった、「デジタル・コンバージェンス(デジタルに統合される)」の状況を予言したものといえるが、現在起こっている技術変革は、あらゆる「もの」と「こと」がスケールアップした形でさらに大規模にデジタル化し、目的に照らした形で最適化されていくのである。
90年代のインターネット革命で世界は大きく変わったが、それをはるかに超えるとんでもない大変化が訪れることになる。一個人であっても、高性能な翻訳アプリの出現により、最初から世界を相手にしたビジネスもしやすくなる。新しいGAFAをあなたが生み出す可能性だってゼロではない。
SDGs、地政学問題、人口動態
3つの変化が事業の新たなチャンスにも
そして、「事業環境」である。働き方や技術も事業環境だが、ここでは社会制度や価値観の変化について述べたい。
第一は、SDGs対応。中でも、気候変動への対応である。毎年、世界のそこかしこで100年に一度の異常気象が観察され、被害を起こしている。CO2排出量の削減は、感染症対策同様に世界的にも最優先事項となり、今まで以上にさまざまな規制が生まれてくるだろう。各種の規制は短期的には企業業績を悪化させるが、新しいイノベーションを生むインセンティブとなり、社会を変えることは間違いない。
第二は、地政学的問題への対応である。米中対立によって、先進技術の利用についての対立や軍事的挑発の増加といった現象があるが、さらに問題が深刻化して、二大陣営に分かれたブロック経済に進む可能性もあり得る。東アジアでの武力紛争ですら否定できない。事態が紛糾すればビジネスどころではなくなるが、捉えようによっては、これまで覇権を握っていた企業が獲得していた巨大なニーズを奪還できるチャンスにもなり得る。